エゼキエル戦争の足音(2)預言に近付きつつある国際情勢

ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領、イランのロウハニ大統領(ロシアのソチにて)

前回の記事では、イスラエルとロシア、イラン、トルコの歴史を振り返り、エゼキエル戦争が起きる条件が着実に整いつつあることを説明しました。今回は、最近の国際情勢から、エゼキエル戦争について預言されている状況がさらに近付いていることを見ていきたいと思います。

ロシア、トルコ、イランの連携

前回の記事でも紹介しましたが、エゼキエル戦争で中心的な役割を果たすと預言されているロシア、トルコ、イランの連携がすでに始まっています。

2017年11月に、ロシアのプーチン大統領、イランのロウハニ大統領、トルコのエルドアン大統領がロシアのソチでシリアの和平に関する会談を開き、三国の連携を深めていくことに合意しています。1

ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領、イランのロウハニ大統領(ロシアのソチにて)
写真:イランのロウハニ大統領(左)、ロシアのプーチン大統領(中央)、トルコのエルドアン大統領(右)。ロシアのソチで行われた首脳会談の記者会見にて。

これまで、ロシアとイランはシリア政府を支援する一方で、トルコは反政府勢力を支援してきました。そのため、この三国は同盟関係にあるわけでも、利害が一致しているわけでもありませんが、シリアに関して三国は協力を進めていくことで一致しています。この三者の会議はその後も継続しており、2019年には4度目となる会談が行われています。

イランの駐露大使カゼム・ジャラリは、シリアの平和に関してこの三者が果たす役割について、次のように語っています。2

イラン、ロシア、トルコは、シリアの平和と安定を確立し、維持するために、アスタナフォーマットの中で協力を強化していくことを決意している。

Iran, Russia and Turkey are determined to strengthen cooperation within the Astana format in order to establish and preserve peace and stability in Syria.

ジャラリの言う「アスタナフォーマット」とは、カザフスタンの首都アスタナ(現在はヌルスルタンに改名)で第1回の会議が開催されたことから命名されたもので、ロシアを中心としたシリア和平交渉を指します。このシリア和平プロセスは「アスタナプロセス」とも呼ばれます。この会議は、シリア政府と反政府勢力が参加する会議を何度か開いて休戦を実現した実績があり、シリアの行方を決める実質的な力を持っています。シリアの和平については、国連主導のジュネーブ和平会議でも話し合われていますが、この会議のメンバーはシリアに実質的な影響力を持っていないので、実質的な決定権を持っているのはロシア、イラン、トルコの三国であると言われています。

この三国を結びつける軸の一つは、欧米諸国への不信感と対抗意識です。ロシアのシリア特使アレクサンドル・ラブレーンチエフはこう語っています。3

シリアは現在、政治的・経済的に厳しい孤立状態にあり、対等な立場で交渉を進めることが困難な状況にある。そのため、我々は欧米諸国の対シリア制裁に対抗するためのメカニズムについて議論している。

Syria is currently experiencing severe political and economic isolation, which makes it difficult for the negotiation process to proceed on an equal footing. Therefore, we are discussing mechanisms to confront US and Western states’ sanctions against Syria.

また、この三国はイスラエルを対抗軸として結束しつつあります。2019年3月に開かれたアスタナプロセスの第17回会議では、ロシア、イラン、トルコがイスラエルに向けて次のような共同声明を出しています。4

(ロシア、イラン、トルコは)イスラエルが国際法、国際人道法、シリアと周辺国の主権を侵害し、地域の安定と安全を危険にさらしながら継続的に行っているシリアにおける軍事攻撃を非難し、その停止を求めた。

(We) condemned continuing Israeli military attacks in Syria which violate the international law, international humanitarian law, the sovereignty of Syria and neighboring countries, endanger the stability and security in the region and called for cessation of them.

さらに、ロシアとイラン、ロシアとトルコの間では軍事的な協力関係も深まっています。イランは2016年末にミサイル防空システム「S300」をロシアから購入し、核開発施設などの防衛に使用しています。トルコは、2019年に最新鋭の防空ミサイルシステム「S400」を購入し、米国から制裁を受けています。防空システムを導入するということは、ロシアからシステムの技術者を受け入れることも意味し、機密情報の漏洩につながる危険性があるというのが米国の主張です。しかし、制裁を受けてもトルコはS400をあきらめず、さらには追加で購入する話も出ています5

そのほかにも、ロシアとイラン、トルコの関係は次のような発展を見せています。

  • ロシアとイランは2017年に10以上の経済、観光、その他外交協定を締結
  • それにより、ロシア・イラン間の貿易は2016年から2017年にかけて70パーセント増加
  • ロシアからトルコ、ヨーロッパに天然ガスを供給するパイプライン「TurkStream(トルコストリーム)」が2020年に開通

アラブ諸国との平和

エゼキエルの預言では、アラビア半島のアラブ諸国は、イスラエルに対するロシアの侵略に反対の声を上げると言われています(エゼキエル38:13。「終末預言を読み解く:ゴグとマゴグの戦い(エゼキエル戦争)」参照)。

1948年のイスラエル建国以来、アラブ諸国はイスラエルにとって仇敵とも言っていい存在でした。アラブ諸国とイスラエルは四度にわたる中東戦争を戦う関係で、エゼキエルの預言は現実とまったく一致しませんでした。しかし、2020年に実現したアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダン、モロッコとイスラエルの和平協定「アブラハム合意」により、状況は一変しました。アラブ半島の大国、サウジアラビアはまだ国交正常化に合意していませんが、時間の問題であると言われています6

実際に、サウジアラビアのアル=ワリード・ビン・タラール王子は、2015年の時点で次のように語っています。 7

中東問題はサウジアラビア王国にとって生死をかけた問題であり、私から見れば、イランがパレスチナというカードを使ってサウジアラビアの政治体制を転覆させようとしていることは明らかです。そのため、サウジアラビアとイスラエルは関係を強化し、イラン政府の野望を阻止するために一致団結する必要があります。

The whole Middle East dispute is tantamount to matter of life and death for the Kingdom of Saudi Arabia from my vantage point, and I know that Iranians seek to unseat the Saudi regime by playing the Palestinian card. Hence, to foil their plots, Saudi Arabia and Israel must bolster their relations and form a united front to stymie Tehran’s ambitious agenda.

また、サウジアラビアのファイサル・ビン・ファーハン・アル・サウド外相は、2021年4月1日に行われたCNNとのインタビューで次のように語っています。8

中東でイスラエルとの国交が正常化すれば、地域全体に多大な利益をもたらすでしょう。……経済的、社会的、そして安全保障の観点からも非常に有益なことです。

The normalisation of Israel’s status within the region would bring tremendous benefits to the region as a whole… It would be extremely helpful economically, socially and from a security perspective.

アラブ諸国の動きを見ても、エゼキエルが預言した状況に近付きつつあることがわかります。

イスラエルが天然ガス輸出国に

エゼキエル戦争の預言の中で、ロシアがなぜイスラエルを侵攻することになるのかが長年の疑問とされてきました。しかし、この疑問は、近年イスラエルで大規模な天然ガス田や油田が次々と発見されていることで解ける可能性があります。

イスラエルのハイファ沖で、2009年には天然ガス田「タマル」、翌年2010年には「レビヤタン」が発見されています。どちらも大規模なガス田で、タマルは20~30年間9、レビヤタンは40年間10、イスラエル国内の天然ガス需要を満たすことができる埋蔵量があると言われています。

米国地質調査所(USGS)は、世界的に見てもこれらの天然ガス田の発見は最大級のものであるとして、次のように語っています。11

レバント堆積盆地(イスラエルやレバノン沖に広がる海底盆地)のガス地帯は、世界にある他の大規模天然ガス地帯に匹敵する。……そこに埋蔵されているガス資源は、我々が米国で評価したどの天然ガス地帯よりも大きい。

The Levant Basin Province is comparable to some of the other large provinces around the world … its gas resources are bigger than anything we have assessed in the United States.

現在、イスラエルでは国内需要を超える天然ガスが生産されており、2020年にはエジプトとヨルダンへの輸出が始まっています。つまり、これまでエネルギー資源を輸入に頼っていたイスラエルが、エネルギー資源の輸出国になったということになります。

さらに、イスラエルからヨーロッパにガスパイプラインを敷設する計画があります。イスラエルとキプロス、ギリシャは、ハイファ沖で採掘した天然ガスをヨーロッパに送る海底パイプラインを敷設する「東地中海パイプライン構想」に合意しています。計画では、ヨーロッパの消費量の10%に当たるガスを輸送する計画で、25年の稼働を目指しています12。ヨーロッパは、天然ガスの4割以上をロシアからの輸入に頼ってますが13、クリミア危機以降、ロシア産ガスへの依存度を減らそうとしています。そのため、ヨーロッパというエネルギー輸出先をめぐって、ロシアとイスラエルがライバル関係に入りつつあります。

エネルギー資源を自給して輸出国となることはイスラエルにとって好ましいことですが、一方でロシアとの火種になる可能性があります。米国の独立系メディアMintPressは、東地中海パイプライン構想について次のように語っています。14

イスラエルと欧州連合は、今日新たな天然ガス取引に調印した。このプロジェクトは、イスラエルからギリシャまたはイタリアまで、地中海の海底を走るパイプラインを建設するというものである。イスラエルは、2010年に広大な海底天然ガス田「レビヤタン」を発見したばかりだ。また、キプロス島の地下にあるアフロディーテ・ガス田からもパイプラインを引く予定である。専門家は、採掘工事と調査を続けることで、さらに大量のガスが発見されると期待している。…ひとつ確かなことは、このパイプラインは、(ヨーロッパの)多くの国にとって、ロシアとの同盟や貿易を拒む理由となる可能性がある、ということである。

Israel and the European Union signed a new natural gas deal today. The proposed project will construct a pipeline running from Israel to Greece or Italy underneath the Mediterranean Sea. Israel only recently discovered the vast underwater natural gas field, Leviathan, in 2010. The pipeline will also extract from the Aphrodite gas field under the island of Cyprus. Researchers expect to find a much larger amount of gas as they continue construction and exploration… One thing is certain: this pipeline could give many countries a reason to turn away from allying or doing trade with Russia.

ヨーロッパのエネルギー資源をめぐる争いがどうなるかは今後の推移を見守る必要がありますが、この問題がエゼキエル戦争が起こる原因の一つとなる可能性は否定できません。

まとめ

以上2回にわたって見てきたように、国際情勢の現実がエゼキエルが預言した状況に近付きつつあります。これは聖書預言の確かさを証しするものです。これから国際情勢を観察していれば、ますますエゼキエル38章~39章の状況に近付いていくでしょう。

聖書の預言は必ず成就します。イエスの誕生も、旧約聖書のメシア預言通りに成就しました。紀元70年にローマ軍に包囲されてエルサレムが陥落した時も、イエスが預言した通りのことが起きました(ルカ19:42~44)。

日本ではよく「なぜキリスト教の神でなくてはダメなの?」と言われます。よく聞かれる質問ですが、前提が間違っています。聖書の神は、唯一です。そのため、○○教の神、××教の神という複数の神がいるという考え方は聖書にはありません。バアルやモレクと呼ばれる異教の神についても聖書は記していますが、それらはすべて人がつくり上げたもので、真の神ではないことを聖書は明らかにしています。

ただ、日本のようなキリスト教信者が少ない土地では、「ではどうやってキリスト教の神が真の神であるとわかるの?」という問いが当然のように湧き上がります。それに対する聖書の答えの一つが、預言です。前もって語っていた預言が成就することで、聖書の神が真の神であることを知ることができるように、聖書は書かれています。旧約聖書のイザヤ46:5~10で言われているとおりです。

5 わたしをだれになぞらえて比べ、わたしをだれと並べて、なぞらえるのか。 6 袋から金を惜しげなく出し、銀を天秤で量る者たちは、金細工人を雇って、それで神を造り、ひざまずいては、これを拝む。 7 彼らはこれを肩に担いで運び、それがあったところに安置すると、それはそこに立ったままである。これはその場所から動かない。これに叫んでも答えず、苦しみから救ってもくれない。 8 このことを思い出し、勇み立て。背く者たちよ、心に思い返せ。 9 遠い大昔のことを思い出せ。わたしが神である。ほかにはいない。わたしのような神はいない。 10 わたしは後のことを初めから告げ、まだなされていないことを昔から告げ、『わたしの計画は成就し、わたしの望むことをすべて成し遂げる』と言う。

人生の目的がわからず、日々の労苦に押しつぶされそうになっている多くの日本人が、真の神を知って希望を見出してくださることを願ってやみません。

参考資料

  • Arnold Fruchtenbaum, The Footsteps of Messiah: Revised 2020 Edition (Ariel Ministries, 2020)
  • Andy Woods, The Middle East Meltdown: The Coming Islamic Invasion of Israel ( Dispensational Publishing House, 2016)
  • Mark Hitchcock, Russia Rising: Tracking the Bear in Bible Prophecy (Tyndale, 2017)
  1. Vladimir Isachenkov and Sarah El Deeb, “Russia, Iran, Turkey agree to advance Syrian peace,” Times of Israel, 22 November 2017 (https://www.timesofisrael.com/russia-iran-turkey-agree-to-advance-syrian-peace/)

  2. Iran Press TV, “Iran, Russia, Turkey resume Syria peace talks in Sochi,” WND, 17 February 2021 (https://www.globalsecurity.org/wmd/library/news/syria/2021/syria-210217-presstv02.htm)

  3. 同上

  4. “Joint Statement by the Representatives of Iran, Russia and Turkey on the 17th International Meeting on Syria in the Astana Format, Nur-Sultan, 21-22 December 2021,” GlobalSecurity.org, 22 December 2021 (https://www.globalsecurity.org/wmd/library/news/syria/2021/syria-211222-russia-mfa01.htm)

  5. Vladimir Odintsov, “Why Isn’t Turkey Putting the S-400 Into Service?, ” New Eastern Outlook, 25 July 2021 (https://journal-neo.org/2021/07/25/why-isnt-turkey-putting-the-s-400-into-service/)

  6. Akshay Narang, “Saudi Arabia has fully normalised relations with Israel, only a huge ceremony remains,” TFI Global, 25 Oct 2021 (https://tfiglobalnews.com/2021/10/25/saudi-arabia-has-fully-normalised-relations-with-israel-only-a-huge-ceremony-remains/)

  7. Abra Forman, “Saudi Prince: “I’ll Side With Israel” Against Palestinian Uprising, Iran,” Israel 365 News, 29 Oct 2015 (https://www.israel365news.com/52468/saudi-prince-ill-side-with-israel-against-palestinian-uprising-middle-east/)

  8. “Saudi FM: Deal with Israel will be ‘extremely helpful’ for region,” Aljazeera, 2 Apr 2021 (https://www.aljazeera.com/news/2021/4/2/saudi-fm-says-normalisation-with-israel-extremely-helpful)

  9. National Geographic「天然ガスがイスラエルの歴史を変える」(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/6366/)

  10. “Leviathan gas field,” Wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Leviathan_gas_field)

  11. “Israel’s Natural Resources,” Facts About Israel (https://www.factsaboutisrael.uk/israels-natural-resources/)

  12. 日本経済新聞「東地中海のガス田が火種 イスラエル開発にトルコ反発」(2020年1月20日) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54609500Q0A120C2FF2000/

  13. 日本経済新聞「欧州の天然ガス調達、危ういロシア依存 最高値更新」(2021年12月23日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN223VM0S1A221C2000000/

  14. “EU Snubs Russia In Favor Of New Israeli Pipeline,” MintPress News Desk, 5 Apr 2017 (https://www.mintpressnews.com/eu-snubs-russia-favor-new-israeli-pipeline/226618/)

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