エゼキエル戦争の足音(1)預言の歴史的展開

ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領、イランのロウハニ大統領(ロシアのソチにて)

聖書には「ゴグとマゴグの戦い」と呼ばれる戦争が終末時代に起こることが預言されています。この戦争では、ロシアを中心とする諸国連合がイスラエルに侵攻します。この預言は、旧約聖書のエゼキエル書に記されていることから、「エゼキエル戦争」とも呼ばれています。

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エゼキエル戦争の預言について、詳しくは「終末預言を読み解く:ゴグとマゴグの戦い(エゼキエル戦争)」をご覧ください。

現在、この預言の成就が近付いていることを示す様々な兆候が現れています。キリスト教弁証論の団体の代表を務めるロン・ローズ博士は、次のように語っています。1

エゼキエル38章と39章に記されている諸国間の連携は過去に一度も実現しなかったが、現在はそれが実現しつつある時代である。

The unique alignment of nations described in Ezekiel 38 and 39 has never occurred in the past, but it is occurring now.

この諸国間の連携を示す出来事の一つが、ロシア、イラン、トルコの連携です。ロシアと共に、イランとトルコもエゼキエル戦争に参加すると考えられている国です。

ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領、イランのロウハニ大統領(ロシアのソチにて)
写真:イランのロウハニ大統領(左)、ロシアのプーチン大統領(中央)、トルコのエルドアン大統領(右)。ロシアのソチで行われた首脳会談後の記者会見にて。

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エゼキエル戦争に参加する国について、詳しくは聖書研究「ゴグとマゴグの戦い(エゼキエル戦争)の参加国」をご覧ください。

この記事では、エゼキエル戦争が近付いていることを歴史の流れで確認していきます。また、次回の記事では、エゼキエル戦争が近いことを示す様々な兆候が今日の国際情勢に現れていることを示したいと思います。

預言の歴史的展開

ここでは、イスラエルをめぐる国際情勢がどのように変化してきたか、ロシア、イラン、トルコとの関係を含めて歴史的に見ていきます。

現代イスラエルの建国

エゼキエル戦争は、イスラエルという国が存在していることが前提となります。それは、エゼキエル38:8で、イスラエルに侵攻するマゴグ(ロシア)の君主、ゴグに対してこう預言されているためです。

8  多くの日が過ぎて、おまえは徴集され、多くの年月の後、おまえは、一つの国に侵入する。そこは剣から立ち直り、多くの国々の民の中から、久しく廃墟であったイスラエルの山々に集められた者たちの国である。その民は国々の民の中から導き出され、みな安らかに住んでいる。 

この聖書箇所では、ゴグの軍は「一つの国に侵入する」と言われています。そのため、イスラエルという国が存在していなかった1948年以前は、侵略の対象となる国が存在していなかったので、エゼキエル戦争の預言が成就する可能性もありませんでした。この預言が成就する可能性があるのは、イスラエルが建国された1948年以降しかありません。

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ここで確認しておく必要がある点は、この戦いは将来に起こるということです。この戦争は過去に起こったと主張する人がいますが、エゼキエル38:16で「終わりの日に、そのことは起こる」と言われているように、エゼキエル戦争は終末時代に起こります。実際に、過去にこのような戦争が起こったという史実はありません。エゼキエル戦争が起こるタイミングについて、詳しくは「ゴグとマゴグの戦い(エゼキエル戦争)が起きるタイミング」をご参照ください。

ユダヤ・サマリヤ山地の回復

また、イスラエルが建国された後であっても、1967年以前にエゼキエル戦争の預言が成就することはありませんでした。エゼキエル39:2~4で、こう言われているためです。

2 わたしはおまえを引き回し、おまえを駆りたて、北の果てから上らせ、イスラエルの山々に連れて来る。…… 4 おまえと、おまえのすべての部隊、おまえとともにいる国々の民は、イスラエルの山々に倒れ、わたしはおまえをあらゆる種類の猛禽や野獣の餌食とする。

この箇所では、ゴグの軍が襲来する場所は「イスラエルの山々」であると特定されています。しかし、独立戦争(第一次中東戦争)でイスラエルが得た領土は基本的に平地や荒野で、山地がほとんど含まれていません。イスラエルの山地は、現在「ウェストバンク」とよばれるユダヤ・サマリヤ地方にあり、当時はヨルダンに占領されていました。

イスラエルの山地
赤線に囲まれた部分がユダヤ・サマリヤ山地

上の地図を見ると、イスラエルの山地はユダヤ・サマリヤ地方に集中していて、それ以外はほぼ平原か荒野であることがわかります。しかし、そのような状況が一変したのが、1967年に起きた第三次中東戦争(六日戦争)です。この戦争の結果、赤線で囲まれたユダヤ・サマリヤ地方(ウェストバンク)はイスラエルの施政下に入りました。厳密に言うとパレスチナ自治政府が治めている地域になりますが、イスラエルが軍を配備して治安を維持していますので、イスラエルの管理下にあります。

ユダヤ人学者のアーノルド・フルクテンバウム博士は、次のように語っています。2

六日戦争によって(エゼキエル戦争の)預言が成就する舞台が整ったとわかるもう一つの例がここにある。1967年の六日戦争まで、西エルサレムの小さな回廊を除いて、イスラエルの山々はすべてヨルダン系アラブ人の支配下にあった。しかし、1967年以降、イスラエルの山々はイスラエルに含まれることになり、この預言が成就する舞台が整ったのである。

Here is another example where the Six Day War has set the stage for the fulfillment of prophecy. Up to the Six Day War in 1967 all of the mountains of Israel, except for a small corridor of West Jerusalem, were entirely in the hands of the Jordanian Arabs. Only since 1967 have the mountains of Israel been in Israel, thus setting the stage for the fulfillment of this prophecy.

そのため、エゼキエル戦争の預言が、第三次中東戦争(1967年)までに成就することもありませんでした。

イランのイスラム革命

エゼキエル戦争に参加する一国であるイランは、従来は親米国で、中東の中では親イスラエル的な国でした。多くのイスラム教国が参加してイスラエルに侵攻した第一次中東戦争には参加せず、イスラム教国としては2番目(トルコの次)にイスラエルを承認した国でした。

その状況が一変したのが、1979年に起きたイスラム革命です。このイスラム革命以降、イランは反米、反イスラエルの国になります。今やイランでは米国を大サタン、イスラエルを小サタンと呼び、中東から米国とイスラエルの影響を一掃することが国是の一つになっています。

それを裏付けるのが、イランのマハムード・アフマディネジャド大統領が行った発言です。2005年にイランで実施された「World without Zionism(シオニズムのない世界)」と題されたイスラエルに対する抗議運動で、アフマディネジャド大統領はスピーチの中で次のように語っています(文脈がわからないと理解しづらい言葉には、かっこの中で具体的な意味を示しています)。3

親愛なるホメイニ師は、占領体制(イスラエル)を地図上から消し去らなければならないと言ったが、これは賢明な発言だった。パレスチナ問題で妥協は許されないからである。……親愛なるホメイニ師は、闘争の中で、世界の抑圧者(米国)の中心、つまり占領体制(イスラエル)を標的とした。私は、パレスチナで始まり、イスラム世界に見られる(反イスラエル運動という)この新しい波によって、イスラム世界からこの不名誉な汚点(イスラエル)が取り除かれることになると信じて疑わない。

Our dear Imam said that the occupying regime must be wiped off the map and this was a very wise statement. We cannot compromise over the issue of Palestine… Our dear Imam targeted the heart of the world oppressor in his struggle, meaning the occupying regime. I have no doubt that the new wave that has started in Palestine, and we witness it in the Islamic world too, will eliminate this disgraceful stain from the Islamic world.

これが、「イスラエルを地図上から消し去る」という有名なアフマディネジャド発言の内容です。この発言には、元々イスラム教が支配していた地域に誕生したユダヤ人国家に対する敵意が満ちています。しかし、このような態度は、イスラム革命以前のパーレビ王朝には見られないものでした。

トルコのイスラム化

エゼキエル戦争に参加するもう一つの国、トルコは、従来はイスラエルに友好的な世俗的イスラム国家でした。世俗的イスラム国家とは、政治と宗教を切り離す政教分離を採用している近代的なイスラム教国家のことです。その中でもトルコは、議会で女性がヒジャブを着用することを禁止するなど、イスラム教が政治に介入することを禁止する徹底した体制が敷かれていました。

そのように、トルコは近代的国家として欧米諸国の一員を自認していましたので、アラブ諸国のようにイスラエルを敵視することはありませんでした。むしろ、欧米の軍事同盟であるNATOに加盟し、イスラエルとも合同軍事演習を行うという良好な関係を保っていたのです。

しかし、現在大統領を務めるレジェップ・タイイップ・エルドアンが首相に就任した2003年以降、イスラエルとの関係が急速に悪化します。トルコは、長年イスラエル人が休暇で訪れる観光地として高い人気を誇っていましたが、そのような交流もなくなっていきます。エルドアンがイスラム主義を掲げ、反イスラエル的な発言を繰り返すことで、イスラエルとトルコの関係が冷え切ったためです。

このような傾向は、2010年に起きたマビ・マルマラ号事件で決定的になります。この事件について、国際情勢と関連付けてエゼキエル戦争を論じたスタンレー・モーガンは次のように語っています。4

(イスラエルとトルコの良好な関係は)すべて、2010年5月31日にイスラエルのガザ封鎖を突破しようとしたトルコの船舶との悪名高い衝突が起こるまでのことだった。主要メディアが報道した内容に反して、この事件は人道支援とは何の関係もなく、中東政治に関わるものだった。これをきっかけに、トルコはイスラエルを激しく敵視するようになり、両国間の関係はほぼ完全に破綻した。このことは、ゴグとマゴグの戦いが近づいていることを示すもう一つの兆候かもしれない。トルコという国が大きな方向転換をしたのである。

All this was before the infamous confrontation with a Turkish ship attempting to break Israel’s blockade of Gaza on May 31, 2010. Contrary to how this was portrayed in the mainstream media, this event had nothing to do with humanitarian aid, but everything to do with the politics of the region. Through this event, Turkey turned on Israel quite viciously, and relations between the two countries have almost completely fallen apart. This could be one more indication that the war of Gog and Magog is drawing close. It demonstrates a major change of direction for the country of Turkey.

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マビ・マルマラ号事件は、トルコ船籍の「マビ・マルマラ号」がイスラエル軍の洋上臨検を受けた際に起きた事件で、同船に多数同乗していた武装した活動家が、臨検のために乗船したイスラエル兵を襲撃し、イスラエル兵と活動家の双方に死傷者が出ました。

一方、ロシアはトルコにとって歴史的な敵対関係にある国で、17世紀から20世紀にかけて何度も戦争で戦った相手でした。しかし、現在ではエルドアンとプーチンの間で関係が強化されつつあり、頻繁に会談を行う関係になっています。これも今までのトルコ・ロシア関係では考えられなかったことです。

ロシアのシリア介入

イスラエルを攻撃する諸国連合の中心となることが預言されているロシアは、イスラエル建国以来、イスラエルと比較的良好な関係を保ってきました。イスラエルの最初の内閣は労働党政権であったため、当時のソ連は労働党政権が社会主義国家を樹立することを期待して、イスラエルの国家承認を行いました。

現在も、イスラエルとロシアには表立った対立関係はありませんが、火種はあります。ロシアはイスラエルから遠い国ですが、2015年にシリア内戦に介入して以降、シリア国内にロシア軍を展開しています。そのため、現在、イスラエルはシリア内に駐留するロシア軍と国境を接している状態にあります。イスラエルは、シリア内にあるイラン軍の拠点を定期的に空爆しているため、シリア国内に常駐するロシア軍との間で緊張関係が生じる可能性がいつもあります。近年にはさらに大きな火種となる状況が出現していますが、この点については次回の記事で取り扱うことにします。

まとめ

今回は、歴史を振り返り、エゼキエル戦争の預言と現実が近付いてきていることを確認しました。次回の記事では、今日の国際情勢から、エゼキエルが預言している状況がさらに近付いていることを示したいと思います。

参考資料

  • Arnold Fruchtenbaum, The Footsteps of Messiah: Revised 2020 Edition (Ariel Ministries, 2020)
  • Andy Woods, The Middle East Meltdown: The Coming Islamic Invasion of Israel ( Dispensational Publishing House, 2016)
  • Andy Woods, “MIDDLE EAST MELTDOWN 02 – EZEKIEL 36. Ezekiel 36:1-11” (https://www.youtube.com/watch?v=_yGjHCaQ8Pk&t=20s)
  • Arnold Fruchtenbaum, “The Book of Ezekiel (audio CD)” (Ariel Ministries), “H. Gog and Magog – 38:1 – 39:16”
  • Mark Hitchcock, Russia Rising: Tracking the Bear in Bible Prophecy (Tyndale, 2017)
  1. Ron Rhodes, Northern Storm Rising: Russia, Iran, and the Emerging End-Times Military Coalition against Israel (Eugene, OR: Harvest, 2008), p. 90.

  2. Arnold Fruchtenbaum, The Footsteps of Messiah: Revised 2020 Edition (Ariel Ministries, 2020), “4. D. f. The Place of the Destruction—Ezekiel 39:1-6”

  3. “Text of Mahmoud Ahmadinejad’s Speech,” New York Times, 30 Oct. 2005 (https://www.nytimes.com/2005/10/30/weekinreview/text-of-mahmoud-ahmadinejads-speech.html)

  4. Stanley A. Maughan, “Selected Expert Perspectives on Ezekiel 38-39 Related to Current World Events with Resulting Influence on Ministry Practices” (D.Min. diss., Dallas Theological Seminary, 2012), p. 49

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