世界史の流れを知り、今後の国際情勢を読み解くための聖書的原則「アブラハム契約の祝福とのろい」の約束とは(1)

砂漠とラクダ

聖書には、世界の歴史を支配してきた原則が記されています。それが「アブラハム契約の祝福とのろい」の約束です。この原則は、世界史の流れを知る上でも、今後の国際情勢を読み解く上でも重要な視点を提供してくれます。

この原則を知るには、まずアブラハム契約とは何かを知る必要があります。

アブラハム契約とは

アブラハムは、ユダヤ人とアラブ人の父祖であり、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教で「信仰の父」として敬われる人物です。このアブラハムに対し、天地創造の神「ヤハウェ(主)」が与えた約束が、聖書の最初の書、創世記に記されています。創世記12:1~3には、次のような神のことばが記されています。

1  【主】はアブラムに言われた。「あなたは、あなたの土地、あなたの親族、あなたの父の家を離れて、わたしが示す地へ行きなさい。 2  そうすれば、わたしはあなたを大いなる国民とし、あなたを祝福し、あなたの名を大いなるものとする。あなたは祝福となりなさい。 3  わたしは、あなたを祝福する者を祝福し、あなたを呪う者をのろう。地のすべての部族は、あなたによって祝福される。」 

ここで語られているアブラハム(アブラム)に対する神の約束が、「アブラハム契約」と呼ばれているものです。ここで神は、メソポタミヤ地方のウルという町にいたアブラハムに対し、約束の地カナン(現在のイスラエル/パレスチナの地)に旅立てと命じています。この時に与えられた約束の一つが「わたしは、あなたを祝福する者を祝福し、あなたを呪う者をのろう」というもので、「アブラハム契約の祝福とのろい」の約束と呼ばれます。

アブラハム契約の祝福とのろい

この「アブラハム契約の祝福とのろい」の約束は、キリスト教(特に福音派)では「イスラエル(ユダヤ人)を祝福する者は祝福され、イスラエルを呪う者はのろわれる」という意味で解釈されています。なぜ、「アブラハムを祝福する者は祝福され、呪う者はのろわれる」という約束が「イスラエルを祝福する者は祝福され、イスラエルを呪う者はのろわれる」という教えになるかというと、アブラハム契約は、アブラハムからイスラエル民族の血筋であるイサク、ヤコブへと継承されているためです。

MEMO
この記事では、文脈によって「イスラエル」という言葉と「ユダヤ人」という言葉の両方を使っていますが、どちらも同じ民族(ユダヤ民族)を指しています。

アブラハム契約のイサクへの継承

アブラハムには、正妻サラとの間に生まれたイサク、エジプト人の側室ハガルとの間に生まれたイシュマエル、そしてサラが亡くなった後に迎えた後妻ケトラとの間に生まれた6人の息子がいました。イサクはユダヤ人、イシュマエルはアラブ人の父祖となった人物で、ケトラとの間に生まれた息子たちも、ミデヤン人などの民族の父祖となります。しかし、この8人の中で、アブラハム契約を継承したのはイサクだけでした。創世記26:2~4には次のように記されています。

2  【主】はイサクに現れて言われた。「エジプトへは下ってはならない。わたしがあなたに告げる地に住みなさい。 3  あなたはこの地に寄留しなさい。わたしはあなたとともにいて、あなたを祝福する。あなたとあなたの子孫に、わたしがこれらの国々をすべて与える。こうしてわたしは、あなたの父アブラハムに誓った誓いを果たす。 4  そしてわたしは、あなたの子孫を空の星のように増し加え、あなたの子孫に、これらの国々をみな与える。あなたの子孫によって、地のすべての国々は祝福を受けるようになる。  

イサクに対しても、「あなたの子孫によって、地のすべての国々は祝福を受けるようになる」という創世記12:3と同様の約束が繰り返されています。一方、イシュマエルを含め、ほかの息子にはこのような約束は与えられておらず、アブラハムの後継者としては退けられています。

MEMO
この聖句で「これらの国々」(3節)と言われているのは、現在のイスラエル/パレスチナの地にあったカナン人の国々です。アブラハム契約では、祝福とのろいだけでなく、土地の約束も与えられています。そのため、現在のイスラエルがパレスチナ人から土地を奪ったという主張は聖書的に正しくありません。この点については、記事「イスラエルに関するよくある誤解(1)イスラエルはパレスチナ人から土地を奪って建国された」も参照してください。

創世記17:18~20で、神は次のようにも語っておられます。

18  そして、アブラハムは神に言った。「どうか、イシュマエルが御前で生きますように。」 
19  神は仰せられた。「いや、あなたの妻サラが、あなたに男の子を産むのだ。あなたはその子をイサクと名づけなさい。わたしは彼と、わたしの契約を立て、それを彼の後の子孫のために永遠の契約とする。 20  イシュマエルについては、あなたの言うことを聞き入れた。必ず、わたしは彼を祝福し、子孫に富ませ、大いに増やす。彼は十二人の族長たちを生む。わたしは彼を大いなる国民とする。 21  しかし、わたしがわたしの契約を立てるのは、サラが来年の今ごろあなたに産むイサクとの間にである。」 

イシュマエルの子孫であるアラブ人は、このことばどおり、中東と北アフリカに広がる一大民族となりました。しかし、この箇所にあるように、アブラハム契約(21節「契約」)を継承したのは、ユダヤ人の父祖となるイサクでした。

このイサクからアブラハム契約を継承したのが、ヤコブです。ヤコブは、後に「イスラエル」と神に改名され(創世記32:28)、イスラエル民族の父祖となる人物です。

アブラハム契約のヤコブへの継承

アブラハムの息子イサクには、双子の息子、エサウとヤコブがいました。アブラハム契約を受け継いだのは、兄のエサウではなく、弟のヤコブでした。創世記27:27~29には次のように記されています。

27  ヤコブは近づいて、彼に口づけした。イサクはヤコブの衣の香りを嗅ぎ、彼を祝福して言った。「ああ、わが子の香り。【主】が祝福された野の香りのようだ。 28 神がおまえに天の露と地の肥沃、豊かな穀物と新しいぶどう酒を与えてくださるように。 29 諸国の民がおまえに仕え、もろもろの国民がおまえを伏し拝むように。おまえは兄弟たちの主となり、おまえの母の子がおまえを伏し拝むように。おまえを呪う者がのろわれ、おまえを祝福する者が祝福されるように。」

ヤコブに対しても、「おまえを呪う者がのろわれ、おまえを祝福する者が祝福されるように」(29節)というアブラハム契約の祝福とのろいの約束が繰り返されています。このヤコブから十二人の息子が生まれ、イスラエル十二部族となります。一方、兄のエサウはエドム人の父祖となり、現在ヨルダンがある地域に国を築きますが、アブラハム契約を継承することはありませんでした。

また、創世記28:13~14では、神ご自身もヤコブに次のように語っておられます。

13  そして、見よ、【主】がその上に立って、こう言われた。「わたしは、あなたの父アブラハムの神、イサクの神、【主】である。わたしは、あなたが横たわっているこの地を、あなたとあなたの子孫に与える。 14  あなたの子孫は地のちりのように多くなり、あなたは、西へ、東へ、北へ、南へと広がり、地のすべての部族はあなたによって、またあなたの子孫によって祝福される

以上の聖書箇所から、アブラハムに与えられたアブラハム契約は、イサク、ヤコブ、そしてイスラエル民族に継承されていることがわかります。そのため、アブラハムに与えられた「わたしは、あなたを祝福する者を祝福し、あなたを呪う者をのろう」という約束を「イスラエルを祝福する者は祝福され、イスラエルを呪う者はのろわれる」という約束として解釈することは、聖書の記述にかなうものであることがわかります。

アブラハム契約の祝福とのろいの約束が成就した聖書中の事例

聖書には、アブラハム契約の祝福とのろいの約束が実現した数多くの例が記されています。以下に一部を紹介します。

MEMO
アーノルド・フルクテンバウム著(佐野剛史訳)『ヘブル的キリスト教入門』(ハーベスト・タイム・ミニストリーズ、2016年)の第5章「メシアニックジューとユダヤ人社会」には、アブラハム契約の祝福とのろいの約束が成就したさらに多くの事例が紹介されています。この記事も同書を参考にしています。

出エジプト時代のエジプト(出エジプト1:8~11、15:1~3、5~6)

創世記の後半で、ヤコブをはじめとするイスラエル民族は、エジプトに移住します。カナンの地でききんが続いたために、エジプトの宰相となっていたヨセフのもとに身を寄せたためです。しかし、それから四百年が経ち、ヨセフのことを知らない新しい王がエジプトに登場し、イスラエル民族を迫害するようになります。出エジプト1:9~11では次のように言われています。

8  やがて、ヨセフのことを知らない新しい王がエジプトに起こった。9  彼は民に言った。「見よ。イスラエルの民はわれわれよりも多く、また強い。 10  さあ、彼らを賢く取り扱おう。彼らが多くなり、いざ戦いというときに敵側についてわれわれと戦い、この地から出て行くことがないように。」 
11  そこで、彼らを重い労役で苦しめようと、彼らの上に役務の監督を任命した。また、ファラオのために倉庫の町ピトムとラメセスを建てた。 

この新しい王の下で、イスラエル民族はエジプトの奴隷となります。これにより、エジプトは史上初の反ユダヤ主義政策を採用した国家となります。

しかし、エジプトの反ユダヤ主義政策はそれだけにとどまらず、出エジプト1:15~16では第二段階に入ります。

15  また、エジプトの王は、ヘブル人の助産婦たちに命じた。一人の名はシフラ、もう一人の名はプアであった。 16  彼は言った。「ヘブル人の女の出産を助けるとき、産み台の上を見て、もし男の子なら、殺さなければならない。女の子なら、生かしておけ。」 

エジプトの次の政策は、生まれてくるイスラエル人の男子をすべて溺死させるというものでした。女子であれば、エジプト人に嫁がせることができるので、生かしておきます。このエジプトの政策は、今で言うユダヤ人の「ジェノサイド」です。このような政策をとったエジプトに対する神の「のろい」について、ユダヤ人神学者のフルクテンバウム博士は次のように書き記しています。

エジプトのイスラエルに対する呪いは、生まれてきた男の子を殺すことであった。その後エジプトには十の災いが下されることになったが、その最後が「エジプト人に生まれた初子の男子がすべて死ぬ」という災いであった。また神は、逃げるイスラエルの民に追い迫るエジプトの軍勢を、溺死という手段で滅ぼした。これも「呪いには同じ種類の呪いを」の一例である。1

フルクテンバウム博士が語っているように、イスラエルを呪ったエジプト人は、神ののろいを受けてさばきを受けました。ここで言われている「呪いには同じ種類の呪いを」というのは、アブラハム契約の下位原則で、アブラハム契約の約束と同様に、歴史の中で繰り返し観察される事実によって裏付けられます。

MEMO
アブラハム契約のもう一つの下位原則は、「神はユダヤ人との約束を先延ばしにすることがあるが、それでもその約束はいつか必ず成就する」というものです。イスラエルの民は、カナンの地を所有することになると約束されながら、四百年間、エジプトに寄留しました。しかし、最終的には約束どおり指導者モーセの時代にエジプトを出て、次の指導者であるヨシュアの時代にカナンの地を所有することになります。

エジプトと同じような出来事は、初代のイスラエル王サウルの時代に滅ぼされたアマレク人の事例にもみることができます(出エジプト17:8、14~16、申命記25:17~18、1サムエル15:1~3、5~6)。出エジプトの時代に、アマレク人がカナンの地に上ってきたイスラエルの民を背後から襲い、弱った人々を切り殺したためです。ここでも、「神はユダヤ人との約束を先延ばしにすることがあるが、それでもその約束はいつか必ず成就する」というアブラハム契約の下位原則が働いていることがわかります。

エリコの遊女ラハブとモアブ人ルツ

アブラハムの祝福とのろいが実現した事例は、個人の場合にも見られます。

出エジプトを導いたモーセの後を継いだヨシュアは、カナンの地のエリコという町に二人の斥候を派遣します。この二人の斥候は追っ手に命を狙われますが、ラハブという遊女がかくまい、命を救われます。ヨシュア記6:22~25には、ヨシュアがエリコ攻略の際にラハブの命を救うように命じる場面が出てきます。

22  ところで、ヨシュアはこの地を偵察した二人の男に言った。「あの遊女の家に行き、あなたがたが彼女に誓ったとおり、その女とその女に連なるすべての者を連れ出しなさい。」 
23  偵察した若者たちは行って、ラハブとその父、母、兄弟、彼女に連なるすべての者を連れ出した。彼女の親族をみな連れ出し、イスラエルの宿営の外にとどめておいた。 24  彼らはその町とその中にあるすべてのものを火で焼いた。銀や金、および青銅や鉄の器だけは【主】の家の宝物倉に納めた。 25  しかし、遊女ラハブと、その一族と、彼女に連なるすべての者をヨシュアが生かしておいたので、彼女はイスラエルの中に住んで今日に至っている。エリコを偵察させようとしてヨシュアが送った使いたちを、彼女がかくまったからである。 

また、旧約聖書のルツ記には、イスラエルを祝福するモアブ人の女、ルツの話が出てきます。ルツは、隣国モアブの地に移住したイスラエル人、ナオミの家に嫁いだモアブ人でした。しかし、ナオミの夫もルツの夫も亡くなった後、姑のナオミに付き従ってイスラエルの地に移住します。モアブの地に残るように諭すナオミに対し、ルツは次のように言ってイスラエルの民と運命を共にすることを選びます。

16  ルツは言った。「お母様を捨て、別れて帰るように、仕向けないでください。お母様が行かれるところに私も行き、住まれるところに私も住みます。あなたの民は私の民、あなたの神は私の神です。 17  あなたが死なれるところで私も死に、そこに葬られます。もし、死によってでも、私があなたから離れるようなことがあったら、【主】が幾重にも私を罰してくださるように。」 

イスラエルを祝福したこの二人は、いずれもダビデ王とイエス・キリストの家系に連なるという祝福にあずかります。マタイ1:1~6aのイエス・キリストの系図には、ラハブとルツの名前が記されています。

1  アブラハムの子、ダビデの子、イエス・キリストの系図。 
2  アブラハムがイサクを生み、イサクがヤコブを生み、ヤコブがユダとその兄弟たちを生み、 3  ユダがタマルによってペレツとゼラフを生み、ペレツがヘツロンを生み、ヘツロンがアラムを生み、 4  アラムがアミナダブを生み、アミナダブがナフションを生み、ナフションがサルマを生み、 5  サルマがラハブによってボアズを生み、ボアズがルツによってオベデを生み、オベデがエッサイを生み、 6  エッサイがダビデ王を生んだ。… 

これも、イスラエルを祝福する者は祝福されるという約束が成就した一例です。

イスラエル人を通して祝福を受けた事例は、ヤコブの叔父ラバン(創世記30:25~30)、エジプトでヨセフの主人となったポティファル(創世記39:1~5)、ユダヤ人を祝福したローマの百人隊長(ルカ7:2~5)、百人隊長コルネリウス(使徒10:22)などがあります。逆にのろいを受けた事例は、アブラハムの時代のエジプトのファラオ(創世記12:10~15)、ペリシテ人の領主アビメレク(創世記20:1~2)、ペルシャの高官ハマン(エステル3:5~6、7:9~10)などにも見ることができます。

(次回に続く)

参考資料

  • アーノルド・フルクテンバウム『イスラエル学』(ハーベスト・タイム・ミニストリーズ、2018年)
  • アーノルド・フルクテンバウム『ヘブル的キリスト教入門』(ハーベスト・タイム・ミニストリーズ、2016年)
  1. アーノルド・フルクテンバウム『ヘブル的キリスト教入門』(ハーベスト・タイム・ミニストリーズ、2016年)p. 83

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