ロシアのイランとの接近とアフリカ諸国への影響拡大

プーチン大統領とライシ大統領

旧約聖書のエゼキエル書では、終末時代に北方諸国がイスラエルに侵攻することが預言されている(エゼキエル38~39章)。この戦争は「ゴグとマゴグの戦い」または「エゼキエル戦争」と呼ばれている。近年、この戦争でイスラエルに侵攻すると預言されている国々が、互いの関係を深める一方で、イスラエルに敵対する動きを見せるという現象が加速している。今回は、そうした国々の最近の動向を取り上げる。

ライシ大統領の死とロシアとイランの接近

5月19日にイランのライシ大統領と外相がヘリコプターの墜落事故で死亡した後、イランとロシアの蜜月ぶりが目立つようになっている。『Daily Express』紙は、ライシ大統領の死亡事件とロシアのプーチン大統領の対応について、次のように報道している。

 イランのエブラヒム・ライシ大統領と外相が、霧の中でヘリコプターが墜落した数時間後に死亡しているのが発見された。 …
 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ライシ大統領の葬儀のためにロシアを出てイランに向かうというまれな行動に出た。プーチン大統領が搭乗するジェット機は、ロシア製のスホーイ35戦闘機4機に護衛されながらテヘランを往復することになる。
― Alessandra Scotto di Santolo , “Iran president funeral LATEST: Putin makes rare trip out of Russia as thousands gather,” Daily Express, 21 May 2024

Iranian President Ebrahim Raisi and the country’s foreign minister were found dead on Monday, hours after their helicopter crashed in fog…
Russian President Vladimir Putin is making a rare trip out of Russia to travel to Iran for Raisi’s funeral. Putin’s jet will be escorted by four Russian Sukhoi 35 flight jets all the way to and from Tehran.

ロシアのプーチン大統領が、現在ウクライナとの戦争中であるにもかかわらずロシアを出て、ライシ大統領の葬儀に出席したことは驚きをもって報じられた。ロシアとイランは「ゴグとマゴグの戦い」に参加することが聖書学者の間で確実視されている数少ない国である。歴史的には友好国と言えなかった両国が急速に接近している現在の状況は、聖書預言の確かさを改めて思わされる。

ライシ大統領の葬儀には、プーチン大統領に先立ってロシア議会「デュマ」のヴォロディン議長も参加しており、『Nikkei Asia』紙が次のように報じている。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ヴォロディン議長にライシ大統領の死に対する哀悼の意を伝えるよう要請していた。プーチン大統領は、ライシ大統領は「国益を第一に行動し」、合意を守ってくれると信頼できる「非常に頼りがいのあるパートナー」だったと述べた。 …
 昨年7月、イランは、中国とロシアが主導する地域グループである上海協力機構に加盟した。また、12月には旧ソ連諸国による自由貿易協定であるロシア主導のユーラシア経済連合(EAEU)にも加盟している。
― Shuntaro Fukutomi, “Russia, China and Iran move closer after President Raisi’s death,” Nikkei Asia, 24 May 2024

Russian President Vladimir Putin had asked Volodin to convey his sympathy over Raisi’s death. Raisi was a “very reliable partner” who was “guided by national interests” and could be trusted to honor agreements, Putin said…
In July last year, Iran joined the Shanghai Cooperation Organization, a regional grouping led by China and Russia. It also signed on to the Russia-led Eurasian Economic Union (EAEU), a free trade agreement of former Soviet states, in December.

イランは、ロシアがウクライナとの戦争で使用しているドローンなどの武器を供給していることもあり、ウクライナ戦争を通じてロシアとの関係が深まっている。ただ、そのような事情を踏まえても、近年のロシアとイランの急接近には目を見張るものがある。

ガザ紛争を軸に反イスラエルで一致するイラン、ロシア、トルコ

2023年10月7日のハマスによるテロを受けてイスラエルが捕虜奪還とハマス掃討のために進めているガザ侵攻について、イラン、ロシア、トルコは反イスラエルで一致する方向に動いている。

イランは、1979年のイスラム革命以降、反イスラエルの姿勢を貫いていることはよく知られており、イスラエルのガザ侵攻は現在のイスラム世界で最も重要な問題と主張している。

一方、トルコはNATO加盟国で、従来は親イスラエル国家であった。しかし、2003年に現在のエルドアン大統領の公正発展党(AKP)が政権の座に就いて以降、イスラエルとの関係は悪化の一途をたどっている。それと反比例するように、トルコは反イスラエルのイランに接近するようになっており、先日イランがミサイルやドローンでイスラエルを攻撃した際も、イラン政府はトルコには事前に通告していた

トルコのエルドアン大統領は、現在のガザ紛争でハマスを支持する立場を鮮明にしており、イスラエルに批判的な姿勢を取っている。この点について、『エルサレムポスト』紙は次のように報道している。

トルコの大統領は、週末にハマスの指導者たちを招いて、きわめて象徴的で重要な会合を開いた。これは、10月7日のイスラエル襲撃以降、ハマスが中東地域で影響力と権力を増している現状を反映している。ハマスによる1200人以上の虐殺と250人の誘拐という、ホロコースト以来最大となったユダヤ人虐殺の後に、イラン、ロシア、中国、トルコ、カタールなどで、ハマスの影響力が増大しているのである。人道に反する歴史的な罪を犯したハマスが、孤立するどころか、諸手を挙げて歓迎されている。
― Seth J. Frantzman, “Political symbolism: Turkey hosts Hamas leaders as if Hamas is a state,” The Jerusalem Post, 21 Apr 2024 (https://www.jpost.com/israel-hamas-war/article-798101)

Turkey’s president hosted Hamas leaders over the weekend in highly symbolic and important meetings that reflect the terror group’s increased influence and power in the region after the October 7 attack on Israel. In the wake of the Hamas massacre of more than 1,200 people and the kidnapping of 250, the largest massacre of Jews since the Holocaust, Hamas has found that it has more clout in Tehran, Moscow, Beijing, Ankara, Doha, and other places. Instead of being isolated after its historic crimes against humanity, Hamas has been embraced.

トルコは、国際司法裁判所(ICJ)にジェノサイドの罪でイスラエルを訴えている南アフリカを支援する意向も示している。

 イスラエルがジェノサイド(民族虐殺)を行っているとして南アフリカが国際司法裁判所(ICJ)に訴えた訴訟にトルコも参加する意向を表明した。
 トルコのハカン・フィダン外相は、インドネシアのレトノ・マルスディ外相とともにアンカラで開いた共同記者会見で、この発表を行っている。
 今回の決定は、国際司法裁判所がイスラエルに対し、ジェノサイド条約の下でジェノサイドとなる可能性のあるいかなる行為も控えるよう命じたことを受けたものである。さらにイスラエルは、自国の軍隊がパレスチナ人に対する大量虐殺行為を行わないことを保証するように指示されてもいる。南アフリカは、イスラエルがガザで国家主導のジェノサイドを行っていると非難し、訴訟を行っていた。
 実はこれまでにも、トルコのタイイップ・エルドアン大統領の発言により、トルコは文書の提供を通してこの訴訟に関与していると言われていた。一方、イスラエルと西側同盟国は、ジェノサイド疑惑を根拠のないものとして断固否定している。
― “Turkey joins South Africa in genocide case against Israel,” i24 News, 1 May 2024

Turkey has declared its intention to join South Africa in a genocide case against Israel at the International Court of Justice (ICJ).
Turkish Foreign Minister Hakan Fidan made the announcement during a joint press conference held in Ankara, alongside Indonesia’s Foreign Minister Retno Marsudi…
The decision comes after the ICJ previously ordered Israel to refrain from any actions that could potentially constitute genocide under the Genocide Convention. Additionally, Israel was directed to ensure its military forces do not engage in genocidal acts against Palestinians. South Africa had initiated the legal action, accusing Israel of perpetrating state-led genocide in Gaza.
Earlier statements from Turkish President Tayyip Erdogan indicated Turkey’s involvement in providing documentation for the case. However, Israel and its Western allies have vehemently rejected the allegations, dismissing them as baseless.

MEMO
 ジェノサイドとは民族虐殺のことだが、これをイスラエルがガザで行っている作戦に適用することは言葉の誤用になる。イスラエルは人口の2割をパレスチナアラブ人が占め(2019年時点で約190万人)、ウェストバンクのパレスチナ自治区にも300万人ほどのパレスチナアラブ人が暮らしているが、何事もなく生活している。イスラエルの軍事行動の目的はハマスの掃討であり、一般市民を対象にしたものではない。このことは、イスラエル軍が攻撃対象の周辺に住む市民に対して事前に退避通告を行っていることにも表れている。
 また、10月7日のユダヤ人虐殺の首謀者であるヤヒヤ・シンワルは、イスラエル兵殺害などの罪でイスラエルの刑務所で服役していた時に脳梗塞を発症し、イスラエルの病院で7時間にわたる外科手術を受けて一命を取り留めている。イスラエルが人道的国家ではなく実際にジェノサイド国家であれば、10月7日の悲劇は起こっていなかったかもしれない。
 このようなイスラエルが実際に行ってきたことを見ると、イスラエルはジェノサイド国家であるという主張は単なるプロパガンダ(政治的宣伝)でしかないことがわかる。

ロシアも、10月7日の事件以降ハマスとの距離を縮めており、次のように報道されている。

 ロシア政府は、テロリズムに対して強硬な姿勢を取ると主張している。しかし、10月7日にイスラエル南部でハマスの戦闘員による虐殺が起きて以来、ハマスとの関係は深まるばかりである。
 16人のロシア人が殺害され、モスクワ市民がイスラエル大使館に献花している中でも、ロシア政府はハマスの行動を非難せず、「重大な懸念」を表明するにとどまった。…
 ロシア政府は、長い間ハマスと近い関係を保っており、10月7日のテロの後でも、他の国々のようにハマスをテロ組織として指定することを拒否し、ハマスとの関係を切ることを嫌ったことが明らかになっている。
 そうすることで、ロシアはテロリストが最も切望しているもの、すなわち組織の正当性や合法性を承認する効果をハマスに与えている。2006年にハマスがパレスチナ議会選挙でファタハに歴史的勝利を収めた時も、プーチンは世界で最初にハマスに祝辞を述べた指導者の一人であった。
― Milàn Czerny and Dan Storyev, “Why Russia and Hamas Are Growing Closer,” Carnegie Politika, 25 Oct 2023

The Kremlin purports to take a hard stance on terrorism. Yet since the massacre in southern Israel carried out by Hamas militants on October 7, it has only grown closer to the group.
Despite the killing of 16 Russian nationals, and even as Muscovites laid flowers at the Israeli embassy, the Kremlin declined to condemn Hamas’s actions, expressing only “grave concerns.” …
In the case of Hamas, Moscow has long cozied up to the group, declining to designate it as a terrorist organization as many other countries have done, even after the October 7 attacks, and making clear that it is loath to sever contact with Hamas.
In doing so, Russia provides Hamas with what terrorists most covet: the legitimating effect of recognition. In 2006, following the group’s historic victory over Fatah in legislative elections, Putin was among the first world leaders to congratulate it.

ハマスが10月7日に行った虐殺を多くの国が非難したが、「ゴグとマゴグの戦い」でイスラエルを攻撃すると預言されているイラン、ロシア、トルコは、みなハマスを支持または擁護する側に立っている。いずれも、数十年前まではイスラエルと友好関係にあった国である。

一方、「ゴグとマゴグの戦い」でイスラエルを攻撃しないことが預言されているアラブ諸国は、1948年のイスラエル建国以来何度も戦争をしてきたにもかかわらず、近年になって次々にイスラエルと平和を回復し、国交を正常化するようになっている。前回の記事で紹介したように、まだ国交を正常化していないサウジアラビアも、国交正常化を視野に入れてイスラエルと交渉を行っている。

以上のことは、世界情勢が聖書の預言する状況に近付いていることを思わせる。

ロシアとの軍事・経済的関係を強めるスーダン

エゼキエル書38章の預言で、ロシアやイランと軍事行動を共にすると言われている「クシュ」は、現在のスーダンだとする主張がある(記事「ゴグとマゴグの戦い(エゼキエル戦争)の参加国」参照)。このスーダンで、最近ロシアとの軍事的、経済的結びつきを強化する合意が結ばれており、次のように報道されている。

 スーダンとロシアは、紅海にロシア海軍の後方支援センターを設置することを含む、一連の軍事・経済協定に調印する予定だと、スーダン軍事政権の「主権評議会」メンバーであるヤシール・アル・アッタ中将は語っている。
 最近スーダンの港を訪問したロシアのミハイル・ボグダノフ大統領特使は、海軍支援センターと引き換えにスーダン軍に軍事援助を提供することを提案している。
 アル・アッタ中将はさらに、「われわれは、この合意以外にも、農業ベンチャー、鉱山採掘の提携、港湾開発などの経済的側面を含む協力関係に拡大することを提案している。ロシア側も、この幅広い協力関係に同意している」
― “Sudan to solidify military and economic ties with Russia, including Red Sea base,” Sudan Tribune, 25 May 2024

Sudan and Russia are set to sign a series of military and economic agreements, including the establishment of a Russian naval logistical support center on the Red Sea, according to Lt Gen Yasir al-Atta, a member of Sudan’s military-led Sovereign Council.
During a recent visit to Port Sudan, Russian presidential envoy Mikhail Bogdanov proposed providing military aid to the Sudanese army in exchange for the naval support centre…
He further elaborated, “We agreed to this but suggested expanding the cooperation to include economic aspects like agricultural ventures, mining partnerships, and port development. Russia agreed to this broader scope.”

MEMO
スーダンは2021年にイスラエルとの国交正常化に合意しているので、イスラエルとの関係も良好である。エゼキエルの預言の「クシュ」は、スーダンではなくエチオピアと解釈することもできるため、スーダンについては断定的なことは今のところ言えない。ゴグとマゴグの戦いに参加する国については、記事「ゴグとマゴグの戦い(エゼキエル戦争)の参加国」をご参照ください。

リビアで影響力を拡大するロシア

ゴグとマゴグの戦いに参加する可能性のあるもう一つのアフリカの国にリビアがある。エゼキエル書で「プテ」と呼ばれている国がリビアを指すという主張があるためである。このリビアでも、ロシアが影響力を拡大しており、カタールの放送局「アルジャジーラ」は次のように報じている。

…ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、アフリカで自国の勢力を拡大し続けている。
 ロシアは、民間軍事請負業者(PMC)のワグネル・グループという姿で、少なくとも2018年以来、リビアで存在感を強めている。同グループは、リビア国民軍(LNA)の指導者ハリファ・ハフタルの下で、同部隊の訓練に従事していると2018年に初めて報告されている。LNAは暫定政府に反旗を翻し、リビアに存在する2つの議会のうち東方の議会に属している勢力である。…
 地上でのプレゼンスに加えてロシアの軍艦にトブルク港の停泊権を与え、防空システムとパイロットの訓練をLNAが見返りとして受けるという交渉も進行中である。
― Simon Speakman Cordall, “Under new general, Russia’s Wagner makes deeper inroads into Libya,” Aljazeera, 25 Feb 2024

… Russia’s President Vladimir Putin continues to expand his country’s reach in Africa.
Russia, in the form of the private military contractor (PMC) Wagner, has been a growing presence in Libya since at least 2018, when the group was first reported to be training troops under renegade military commander Khalifa Haftar, leader of the Libyan National Army, forces belonging to the eastern of the country’s two parliaments…
In addition to its presence on the ground, talks are under way to give Russian warships docking rights at the port of Tobruk in exchange for air defence systems and training for LNA pilots.

ロシアが北東アフリカで影響力を拡大するという状況も、エゼキエル書の預言と一致している。

預言が具体的にどのように成就するかは実際に起きてみないとわからないことが多いが、聖書の預言は文字どおりに成就するというのが、歴史が示していることである。ゴグとマゴグの戦いの預言も、過去の聖書預言と同様に文字どおりに成就することが今の状況からもうかがい知ることができる。

MEMO
過去に成就した聖書預言については、クリスチャンコモンズのサイトの聖書預言関連記事をご覧ください。

聖書預言が与えられている意味

将来に起こる預言が聖書に記されている理由について、神は預言者イザヤを通して次のように語っています(イザヤ46:5~10)。

5 わたしをだれになぞらえて比べ、わたしをだれと並べて、なぞらえるのか。 6 袋から金を惜しげなく出し、銀を天秤で量る者たちは、金細工人を雇って、それで神を造り、ひざまずいては、これを拝む。 7 彼らはこれを肩に担いで運び、それがあったところに安置すると、それはそこに立ったままである。これはその場所から動かない。これに叫んでも答えず、苦しみから救ってもくれない。 8 このことを思い出し、勇み立て。背く者たちよ、心に思い返せ。 9 遠い大昔のことを思い出せ。わたしが神である。ほかにはいない。わたしのような神はいない。 10 わたしは後のことを初めから告げ、まだなされていないことを昔から告げ、『わたしの計画は成就し、わたしの望むことをすべて成し遂げる』と言う。

ここで言われているように、聖書で将来の預言が与えられているのは、天地をお造りになった神がおられることを人が知り、真の神に立ち返るためです。神に立ち返る道は、イエス・キリストの福音によって示されています。この記事を読まれる方が、イエス・キリストにある救いを受けられるようにお祈りいたします。

写真:イラン政府大統領府

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