ゴグとマゴグの戦い(エゼキエル戦争)の参加国

ゴグとマゴグの戦いの参加国(フルクテンバウム説)

旧約聖書のエゼキエル38~39章には、終末時代に北方諸国がイスラエルに侵攻する「ゴグとマゴグの戦い(エゼキエル戦争)」の預言が記されています。このバイブルスタディでは、このゴグとマゴグの戦いに参加する国の特定を試みます。

さまざまな聖書預言の成就と国際情勢を見ていると、ゴグとマゴグの戦いの預言はそう遠くない未来に成就する可能性があります。ただ、預言の解釈を間違えていると、世界情勢を誤って解釈し、間違った結論を出してしまう可能性があります。そのため、この記事では、エゼキエルの預言に登場する国名は現在どの国に該当するかを定評のある文献や歴史的事実に基づいて探ってみたいと思います。

問題

エゼキエル38~39章で言及されている国は古代の国名であり、現在の国名とは異なります。そのため、この預言を読み解くには、エゼキエルが言及している国名が現在はどの国にあたるのかを特定する必要があります。エゼキエル書の執筆時期は、紀元前592年~570年と言われています1。そこで、その当時に存在した国や民族から、エゼキエルが言及している国や地域を特定する作業が必要となります。

参考資料

ここで行う国名の特定には、主に以下の著書を参考にしています。

  • アーノルド・フルクテンバウム著『The Footsteps of Messiah: Revised 2020 Edition(メシアの足音:2020年改訂版)』(Ariel Ministries、2020年)
  • アンディ・ウッズ著『Middle East Meltdown(中東メルトダウン)』(Dispensational Publishing House、2016年)

どちらの著者も、神学的にはディスペンセーション主義者で、患難期前携挙説に立つ学者です。それでも、両者の意見にはいくつもの違いがあります。そのため、ゴグとマゴグの戦いに参加する国については、解釈の幅があると知っておく必要があることがわかります。この違いは、聖書解釈の違いというよりも、国の特定に使用する文献や方法論の違いによって生じるものです。

フルクテンバウム博士は、ユダヤ教のラビ文書であるミドラッシュやタルムードをよく参照しています。そのため、異邦人の学者とは解釈が異なる場合があります。

また、預言に登場する国名を「民族」と結びつけるか、「地域」と結びつけるかで違ってきます。フルクテンバウム博士は民族と結びつける一方、ウッズ博士は地域と結びつけて現在の国の特定を行っています。そのため、次のような違いが生じます。

  • フルクテンバウム博士:エゼキエル書の国名を民族に結びつけるので、その後民族が移動すると、定住した先で今はどの国になっているかを考える。
  • ウッズ博士:エゼキエル書の国名を地域に結びつけるので、その国がエゼキエルが生きていた当時にあった地域に今はどの国があるかを考える。

聖書には上記のどちらの考え方もあるので、どちらの方法論が正しいかを聖書から断定するのは難しいところです。たとえば、聖書ではユダヤ民族に対する預言は、ユダヤ民族が約束の地にいても、捕囚でバビロンに連れて行かれていても、世界中に離散していても適用されます。一方、旧約聖書には現在は滅びて存在しない民族に対する終末預言があり、この場合は民族がいた地域に対する預言だと考えることができます。たとば、エレミヤ48:1~46のモアブに対する終末預言、エレミヤ49:7~13のエドムに対する終末預言は、どちらも民族としては滅びて存在しないので、地域的に現在のヨルダンに対する預言だと解釈できます。

このように複数の学説があって、エゼキエル38~39章に登場する国を一つに絞り込むことはできないにしても、一定数の候補に絞り込むことはできます。

聖書箇所

ゴグとマゴグの戦いを描写しているエゼキエル38~39章の中で、イスラエルに侵攻する国名が記されているのは以下のエゼキエル38:1~6です(国名を太字で示します)。

1 次のような主のことばが私にあった。 2 「人の子よ。メシェクとトバルの大首長である、マゴグの地のゴグに顔を向け、彼に預言せよ。 3 『神である主はこう言われる。メシェクとトバルの大首長であるゴグよ。今、わたしはおまえを敵とする。 4 わたしはおまえを引き回し、おまえのあごに鉤をかけ、おまえと、おまえの全軍勢を出陣させる。それはみな完全に武装した馬や騎兵、大盾と盾を持ち、みな剣を取る大集団だ。 5 ペルシアクシュプテも彼らとともにいて、みな盾を持ち、かぶとを着けている。 6 ゴメルとそのすべての軍隊、北の果てのベテ・トガルマとそのすべての軍隊、それに多くの国々の民がおまえとともにいる。

日本語では「大首長」と訳されている「大」の部分(principal, chiefの意味)に当たる語の「ロシュ(Rosh)」は、ASV、NASBなどの英訳聖書では地名として訳されています。この記事では、ASV、NASBなどの解釈に従い、ロシュは地名として扱います。

MEMO
ちなみに、文語訳聖書ではエゼキエル38:1を次のように訳し、「ロシュ(Rosh)」を「ロシ」と訳出しています。

人の子よロシ、メセクおよびトバルの君たるマゴグの地の王ゴグに汝の面をむけ之にむかひて預言し… 

以上から、ゴグとマゴグの戦いに参加する国は、マゴグ、ロシュ、メシェク、トバル、ペルシア、プテ、クシュ、ゴメル、トガルマということになります。これらの国が現在ではどこに該当するかを特定するのが、この記事の目的です。

MEMO
なお、エゼキエル38:2にある「ゴグ」はマゴグの首長のことを指し、国名ではありません。また、ゴグは人名ではなく、エジプトの「ファラオ」などと同じでタイトル(肩書)です。

国名の特定に使用する文献

上記の国名は、ノアの息子たちから派生した諸国民を記述した創世記10:1~72にも記されています。この諸国民がどのような地域に住み、どのような名前で呼ばれるようになったかは、紀元1世紀のユダヤ人史家ヨセフスが『Antiquities(ユダヤ古代誌)』に記していますので、これが重要な手がかりになります。また、『Brown, Driver, and Briggs』(BDB)などのヘブライ語辞典には、聖書に登場する国名の説明が記載されている場合があります。さらに、聖書はユダヤ文化の中で書かれた文書ですので、当時のユダヤ人の認識を知る上で、ユダヤ文献のミドラッシュやタルムードも参考になります。

それでは、具体的に国名の特定に入りましょう。

マゴグ

マゴグを特定する上で重要な文献は、ヨセフスの『ユダヤ古代誌』です。ヨセフスは次のように記しています。3

マゴグは、マゴグ人と呼ばれる人々の開祖となったが、今ではマゴグ人はギリシャ人からスキタイ人と呼ばれている。

Magog founded those that from him were named Magogites, but who are by the Greeks called Scythians.

MEMO
ヨセフスの『Antiquities(ユダヤ古代誌)』には邦訳もありますが、ここでは英語訳から筆者が翻訳しています。

スキタイ人は、紀元前8世紀~紀元前7世紀に中央アジアからロシア南部に移住した騎馬民族です。エゼキエルの時代は、黒海の北方、黒海とカスピ海の間の地域、カスピ海の北方を活動領域としていました。

フルクテンバウム博士は、創世記の注釈書4で、マゴグについて次のように解説しています。

ヤペテの次男はマゴグで、黒海とカスピ海の間、現在のロシア南部にあたる古代リディアの地域、アルメニアとカッパドキアの間の地域に位置していた。ヨセフスはマゴグをスキタイ人と特定している。

Japheth’s second son was Magog, located between the Black and Caspian Seas, the area of ancient Lydia that is presently Southern Russia, and the region between Armenia and Cappadocia. Josephus identifies them as the Scythians.

一方、ウッズ博士は、中央アジアに位置するカザフスタン、アフガニスタンなどの「スタン」が付く国々と、ロシア南部やウクライナがマゴグに該当するとしています。

考察

エゼキエル書が書かれた紀元前592年~570年頃の世界地図を見ると、現在の「スタン」が付く諸国の中でも、アフガニスタン、パキスタンがある地域は、スキタイ人(Schytians)の活動領域ではなく、メディア王国(Media Empire)の支配下にあります。スキタイ人は元々中央アジアにいましたが、この頃にはすでに大部分はロシア南部に移動しています。ただし、カスピ海の東方にあるカザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタンは、スキタイ人の活動領域とみなすことが可能です。

BC576頃の中東・アフリカ
図1:BC576頃の中東・アフリカ(出典:ワールド・ヒストリカル・アトラス)

また、一般的な歴史ではスキタイ人の支配領域には現在のウクライナも含まれるため5、フルクテンバウム説のロシア南部に加えて、ウクライナも追加する必要があると思われます。

該当する国と地域

  • フルクテンバウム説:ロシア南部。イランとトルコの一部も含む。
  • ウッズ説:カザフスタン、アフガニスタンなどの「スタン」が付く国々、ウクライナ。

ロシュ

ヘブライ語辞典の編纂者として有名なヘブライ語学者ゲゼニウス(1786年~1842年)は、自身の辞書で「ロシュ」を次のように説明しています6

トバルとメシェクと共に言及されている北方民族。間違いなくロシア人であり、10世紀のビザンチンの作家は「ロス」という名で言及しており、タウラスの北方、…ラ(ボルガ)川沿岸に住んでいると語っている。

pr. n. of a northern nation, mentioned with Tubal and Meshech; undoubtedly the Russians, who are mentioned by the Byzantine writers of the tenth century, under the name the Ros, dwelling to the north of Taurus . . . as dwelling on the river Rha (Wolga).”

「ロシュ」がロシアを指すことについては、フルクテンバウム博士とウッズ博士の意見は一致しています。

メシェクとトバル

聖書ではメシェクとトバルは常にセットで言及されています(創世記10:2、エゼキエル27:13、38:2、3など)。そのため、ここでもまとめて取り扱います。

フルクテンバウム博士は、マゴグと同じく、メシェクとトバルの地域はロシア南部であるとし、イランとトルコの一部も含むと語っています。

一方、ウッズ博士は古代ギリシアの歴史家ヘロドトスなどを引き合いに出して、これに異論を唱えています。ヘロドトスが紀元前450年頃に書いた『Histories(歴史)』では、メシェクとトバルは黒海の南西にある山岳地帯に住む人々であると言われており7、その地域は現在ではトルコに当たります。また、ヨセフスはメシェクのことをカッパドキアと特定しています8。カッパドキアも、トルコの中部にあります。また、ヘブライ語辞典の『Brown, Driver, and Briggs』では、メシェクを黒海の南東に住む民とし、トバルをカッパドキアとほぼ同じとみなしてよいとしています。

考察

エゼキエル27:13でツロ(現在のレバノン)に対する言葉として、次のようなことが言われています。

ヤワン、トバル、メシェクはおまえと取り引きをし、人間と青銅の器具をおまえの商品と交換した。

ここでは、ツロと交易(貿易)をしていた国としてトバルとメシェクの名が挙がっています。ヤワンとはギリシャのことです。ツロの貿易相手として考えると、トバルとメシェクは、遠いロシア南部と考えるよりも、ツロにより近いトルコと考える方が理にかなっています。

フルクテンバウム博士は文献上の証拠を示していませんが、エゼキエル27:13の内容と上記に挙げた文献を検討すると、メシェクとトバルはトルコに該当すると判断するのが妥当ではないかと思われます。

該当する国と地域

  • フルクテンバウム説:ロシア南部。イランとトルコの一部も含む。
  • ウッズ説:トルコ

ペルシア

ペルシアが現在のイランを指すことは論者の間で意見が一致しています。ペルシア王国が1935年に変更した国名がイランですから、ペルシアとイランの連続性を疑う人はいません。

クシュ

ヨセフスの『ユダヤ古代誌』では、クシュはエチオピアのことであると言っています。ヨセフスは次のように説明しています。9

ハムの四人の息子のうち、クシュの名は時が経ってもまったく地に落ちていない。クシュが統治していたエチオピア人は、今でもアジアのすべての人々からクシュ人と呼ばれており、自分たちでもそう呼んでいる。

For of the four sons of Ham, time has not at all hurt the name of Cush; for the Ethiopians, over whom he reigned, are even at this day, both by themselves and by all men in Asia, called Cushites.

聖書では、クシュはエチオピアを指していると考えられています(メソポタミヤ地方のクシュを指す創世記2:13を除く)。実際に、英語訳聖書の『New American Standard Bible(NSAB)』では、エゼキエル38:5のヘブル語「クシュ」の訳語に「Ethiopia(エチオピア)」をあてています。そのため、フルクテンバウム博士はクシュをエチオピアのことであると結論付けています。

ただし、古代エチオピアの領土が、現在のエチオピアと同じであったわけではありません。『Wycliffe Bible Encyclopedia(ウィクリフ聖書百科事典)』では、「クシュ」を次のように説明しています。10

「エチオピア」という呼称は誤解を招く恐れがある。エチオピアという呼称は、現代のエチオピア国家を指すものではない。……クシュは……エジプト南部と国境を接していた……現代のスーダンである。

The designation, Ethiopia, is misleading for it did not refer to the modern state of Ethiopia . . . Cush . . . bordered Egypt on the South],…or modern Sudan.

そのため、ウッズ博士は、古代エチオピアの領土は現在よりも広く、エジプトに接していたとし、クシュは現在のスーダンのことであると結論付けています。

考察

先ほどのエゼキエルの時代の世界地図を見ると、現在のスーダンの位置(エジプトの南側と隣接する地域)にクシュ王国があったことが示されています。ただし、クシュは民族的にはエチオピア人の祖先と考えることができるので、どちらの説が正しいかは判断しがたいところです。

該当する国と地域

  • フルクテンバウム説:エチオピア
  • ウッズ説:スーダン

プテ

ヨセフスは、『ユダヤ古代誌』でプテについて次のように記しています。11

また、プテはリビアの創始者であり、その名から住民はプテ人と呼ばれていた。ムーア人の国にも、その名を冠した川がある。そのため、ギリシャの歴史学者の大部分が、この川と隣接する国を「プテ」という名で言及している。しかし、現在の名前は、メスライムの息子の一人であるリビオスに由来する名に改名されている。

Phut also was the founder of Libya, and called the inhabitants Phutites, from himself: there is also a river in the country of Moors which bears that name; whence it is that we may see the greatest part of the Grecian historiographers mention that river and the adjoining country by the apellation of Phut: but the name it has now has been by change given it from one of the sons of Mesraim, who was called Lybyos.

また、ヘブライ語辞典のBDBでは、プテを次のように説明しています。

アフリカ北部の国と人々、おそらくリビア人

a nation and people of northern Africa; probably Libyans

以上のことから、ウッズ博士はプテを現在のリビアであると語っています。

一方、フルクテンバム博士は、リビアを指すのであれば「Lub(ルブ)」という言葉を使うはずだと言い、プテはソマリヤまたはソマリランドのことであるとしています。

考察

フルクテンバウム博士の言うように「ルブ」はリビアを指しています。ヘブライ語辞典のBDBは「ルブ人」について次のように記載しています。

アフリカ北部、エジプトの西方の民

a people of northern Africa west of Egypt

アフリカ北部でエジプトの西というと現在のリビアになりますので、ルブがリビアを指していることは明らかです。それでは、「プテ」もリビアを指しているかというと、そうでない可能性があります。ナホム3:9では次のように言われています。

クシュとエジプトはその力。その力には限りがない。プテもルブ人もその助け手。 

ここではプテとルブ人が共に出てきます。ルブ人は2歴代誌12:3、2歴代誌16:8、ダニエル11:43にも出てきますが、プテとルブ人が同時に言及されているのはナホム3:9のみです。メシェクとトバルのようにいつも一緒に言及されているなら同じ地域を指すとわかるのですが、プテとルブの場合は違います。そのため、ナホム3:9でプテとルブの両方に言及しているということは、プテとルブは違う地域を指していると考える方が理にかなっています。そのため、プテは「ソマリヤまたはソマリランド」と解釈するフルクテンバウム説にも一理あります。

しかし、ヨセフスが「リビア」と明言し、BDBが「アフリカ北部の国」と定義している以上、「リビア」と解釈する説を捨てることは難しいところです。

該当する国と地域

  • フルクテンバウム説:ソマリヤまたはソマリランド
  • ウッズ説:リビア

ゴメル

ユダヤ人史家ヨセフスは、ゴメルについて次のように語っています。12

ゴメルは、ギリシア人から現在ガラテヤ人と呼ばれる人々(ゴール人)の始祖となったが、当時はゴメル人と呼ばれていた。

For Gomer founded those whom the Greeks now call Galatians, [Galls,] but were then called Gomerites.

ガラテヤ地方は現在のトルコの一部ですので、ウッズ博士はゴメルを現在のトルコに該当する地域と結論付けています。

一方、フルクテンバウム博士は、ミドラッシュやタルムードでは「ゴメル」を「ゲルマニア」と呼んでいること、またユダヤ的文書では「ゲルマニア」は「ドイツ」を指していることを根拠として挙げ13、ゴメルはドイツのことであると結論付けています。

考察

ゴメルをドイツとする説も、トルコとする説も有力です。

判断材料になる意見として、終末預言の専門家で、ダラス神学校で教鞭を執るマーク・ヒッチコック博士は次のように語っています。14

 ゴメルが現代のドイツを指している可能性はある。ただ、古代のゴメル人は現在のトルコに該当する地域から別の地域に移動しており、より結びつきが強いのはトルコである。そこがエゼキエルの時代にゴメル人が住んでいた地域だ。
 古代のゴメルは、アッシリアではギミッラーヤ人と呼ばれ、ギリシャではキンメリア人と呼ばれていた。彼らは紀元前8世紀に小アジア、つまり現在のトルコがある地域に登場した。その後、紀元1世紀のユダヤ人歴史家ヨセフスは、現在のトルコ中部に住んでいたガラテヤ人とゴメル人を結びつけている。

While Gomer could refer to modern Germany, since the ancient Gomerites migrated from their original home in the area of modern Turkey to other locations, the more likely connection is with Turkey. That’s where the Gomerites resided in Ezekiel’s day.
Ancient Gomer was referred to by the Assyrians as the Gimirrai and by the Greeks as the Cimmerians. They emerged in the eighth century BC in the area of Asia Minor, or modern Turkey. Later, in the first century AD, the Jewish historian Josephus connected the Gomerites with the Galatians, who inhabited what today is central Turkey.

ヒッチコックによると、ゴメル人は紀元前8世紀から紀元1世紀までは現在のトルコがある地域にいたことになります。エゼキエルが活動したのが紀元前6世紀ですので、エゼキエルの時代にゴメル人がいた場所は現在のトルコです。

一方、タルムードやミドラッシュはユダヤ人が古くからの伝承を書き記したもので、こちらも信憑性があります。ゴメルをエゼキエルの時代にいた地域ではなく、民族としてどこに移動したかを考えると、ドイツ説も一理あります。ヒッチコック博士も「古代のゴメル人は現在のトルコに該当する地域から別の地域に移動しており」と言っているように、西方に移動して定住した先がドイツだとすると、民族的にはゴメルはドイツと考えることができます。

該当する国と地域

  • フルクテンバウム説:ドイツ
  • ウッズ説:トルコ

トガルマ

エゼキエル38:6には「ベテ・トガルマ」と書かれていますが、「ベテ」はヘブライ語で「家」という意味ですので、「トガルマ」が国名になります。

ヨセフスは『ユダヤ古代誌』で、トガルマのことを次のように言及しています。15

トガルマはトガルマ人のことで、ギリシャ人が結論付けたように、今ではフリュギア人と呼ばれている。

..Thrugramma the Thrugrammeans, who, as the Greeks resolved, were named Phrygians.

「フリュギア」は、使徒16:6で次のように言及されています。

それから彼らは、アジアでみことばを語ることを聖霊によって禁じられたので、フリュギア・ガラテヤの地方を通って行った。 

これを見るとわかるように、フリュギアはガラテヤ地方と同じく現在のトルコに位置してします。そのため、ウッズ博士はトガルマの該当地域をトルコと結論付けています。

一方、フルクテンバウム博士は、トガルマは現在のアルメニアにあたる地域であると語っています。

考察

ヨセフスはトガルマをフリュギアであると結論付けていますが、ヘブライ語辞典のBDBには「アルメニアとして知られる地域」と言われています。トルコとアルメニアは隣国で、両方の国にまたがる地域として考えることも可能ですので、トルコとアルメニアの両方を含む地域を指している可能性もあります。

該当する国と地域

  • フルクテンバウム説:アルメニア
  • ウッズ説:トルコ

まとめ

以上をまとめると、エゼキエル38章に登場する国名を各論者は次のように解釈しています。

聖書中の地名 フルクテンバウム説 ウッズ説
マゴグ ロシア南部 中央アジア(例:カザフスタン、アフガニスタン、ウクライナ)
ロシュ ロシア北部 ロシア
メシェクとトバル ロシア南部。イランとトルコの一部 トルコ
ペルシア イラン イラン
クシュ エチオピア スーダン
プテ ソマリヤ(ソマリランド) リビア
ゴメル ドイツ トルコ
ベテ・トガルマ アルメニア トルコ

ゴグとマゴグの戦いに参加する国の予想地図

両者の説を地図で表すと、以下のようになります。

フルクテンバウム説
ゴグとマゴグの戦いの参加国(フルクテンバウム説)
図2:ゴグとマゴグの戦いの参加国 ― フルクテンバウム説(Googleマップより作成)
ウッズ説
ゴグとマゴグの戦いの参加国(ウッズ説)
図3:ゴグとマゴグの戦いの参加国 ― ウッズ説(Googleマップより作成)

ゴグとマゴグの戦いに参加する国は、各説ではそれぞれ次のようになります。この中で、意見が一致している国名を太字で示します。

  • フルクテンバウム:ロシアイラン、エチオピア、ソマリヤ(ソマリランド)、ドイツ、アルメニア
  • ウッズ:ロシアイラン、トルコ、リビア、スーダン、ウクライナ、中央アジアの国々(カザフスタン、ウズベキスタン、アフガニスタン等)

以上をまとめると、ゴグとマゴグに参加することが確実な国は、ロシアとイランであることがわかります。また、フルクテンバウム博士も、メシェクとトバルにはトルコの一部も含まれると語っていることから、その次に確実な国はトルコということになります。そのほかの国は、預言の成就が近付くにつれて明らかになっていくことが予想されます。

MEMO
上の地図では、ゴグとマゴグの戦いに参加しないことがわかっている国「シェバ」と「デダン」も示されています(青字)。エゼキエル38:13では、この2つの国はイスラエルを侵略するゴグとマゴグを非難する側に立つことが預言されています。

結論

以上は歴史学、言語学、ユダヤ教の研究成果に基づくものです。こうした学問の文献は、聖書のように霊感を受けている書物ではないため、同じ立場に立つ聖書学者の間でも、意見が一致しないことがよくあります。そのため、ゴグとマゴグの戦いに参加する国については、多少の解釈の幅を持たせて判断する必要があります。ただし、この記事で示したように、文献を紐解いていくと、おおよその見当を付けることは可能です。

参考資料

2024年5月30日改訂

  1. Charles Caldwell Ryrie, Ryrie Study Bible (New American Standard Bible), (Moody Publishers, 2012), p.973

  2. 1 これはノアの息子、セム、ハム、ヤフェテの歴史である。大洪水の後、彼らに息子たちが生まれた。 2 ヤフェテの子らはゴメルマゴグ、マダイ、ヤワン、トバルメシェク、ティラス。 3 ゴメルの子らはアシュケナズ、リファテ、トガルマ。 4 ヤワンの子らはエリシャ、タルシシュ、キティム、ドダニム。 5 これらから島々の国民が分かれ出た。それぞれの地に、言語ごとに、その氏族にしたがって、国民となった。 6 ハムの子らはクシュ、ミツライム、プテ、カナン。 7 クシュの子らはセバ、ハビラ、サブタ、ラアマ、サブテカ。ラアマの子らはシェバ、デダン。

  3. Josephus, Antiquities 1.6.1.

  4. Arnold Fruchtenbaum, Ariel Bible Commentary, The Book of Genesis (Ariel Ministries, 2008), p.207

  5. 『最新世界史図説 タペストリー(十六訂版)』(帝国書院、2018年)、p.5

  6. Andy Woods, The Middle East Meltdown: The Coming Islamic Invasion of Israel ( Dispensational Publishing House, 2016) Kindle版

  7. Herodotos, Histories 3.9.3, 3.9.4, 7.78

  8. Josephus, Antiquities 1.6.1.

  9. Josephus, Antiquities 1.6.2.

  10. Wycliffe Bible Encyclopedia, the entry of “Cush”

  11. Josephus, Antiquities 1.6.2.

  12. Josephus, Antiquities 1.6.1.

  13. Midrash Rabbah 37:1 (https://www.sefaria.org/Bereishit_Rabbah.37.1?lang=en)

  14. Mark Hitchcock, Russia Rising: Tracking the Bear in Bible Prophecy (Tyndale House Publishers, 2017), p. 55 (Kindle版)

  15. Josephus, Antiquities 1.6.1.

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