聖書では、終末時代に世界統一宗教が現れると預言されています。この預言は、黙示録17:1~6に記されています。
1 また、七つの鉢を持つ七人の御使いの一人が来て、私に語りかけた。「ここに来なさい。大水の上に座している大淫婦に対するさばきを見せましょう。
2 地の王たちは、この女と淫らなことを行い、地に住む人々は、この女の淫行のぶどう酒に酔いました。」
3 それから、御使いは私を御霊によって荒野へ連れて行った。私は、一人の女が緋色の獣に乗っているのを見た。その獣は神を冒涜する名で満ちていて、七つの頭と十本の角を持っていた。
4 その女は紫と緋色の衣をまとい、金と宝石と真珠で身を飾り、忌まわしいものと、自らの淫行の汚れで満ちた金の杯を手に持っていた。
5 その額には、意味の秘められた名、「大バビロン、淫婦たちと地上の忌まわしいものの母」という名が記されていた。
6 私は、この女が聖徒たちの血とイエスの証人たちの血に酔っているのを見た。私はこの女を見て、非常に驚いた。
この預言について以下に解説します。
> 時代時代
世界統一宗教は、いわゆる「大患難時代」の前半3年半に活動することが預言されています。
大患難時代は、キリストが再臨する前の7年間を指し、前半と後半に分かれます。政治体制としては、前半3年半は10人の王が統治する体制、後半3年半は反キリストによる独裁体制となることが預言されていますが、宗教体制も前半と後半で分かれます。黙示録17:1~6で預言されている世界統一宗教は、前半の3年半に世界の宗教界を支配します。
世界統一宗教は、大患難時代の前半に世界の宗教を支配するわけですが、世界的な巨大組織が一夜にして誕生するわけではないので、それまでの時代にも世界統一宗教への動きが各地で見られるはずです。
> 全世界を支配(1節)全世界を支配(1節)
この黙示録の箇所で、世界統一宗教は「大淫婦」(1節)と呼ばれています。「淫婦(harlot)」は、「偽りの宗教」の比喩として旧約聖書でよく使われている表現です。
たとえば、旧約聖書のエレミヤ3:6では次のように言われています。
ヨシヤ王の時代に、【主】は私に言われた。「あなたは、背信の女イスラエルが行ったことを見たか。彼女はあらゆる高い山の上、青々と茂るあらゆる木の下に行き、そこで淫行を行った(英語訳NASB:she was a harlot there)。
ここでは、イスラエルが外国の神々を礼拝することが「淫行」と呼ばれています。真の神を捨て、偽りの神を礼拝することを、夫を裏切って別の男と姦淫することになぞらえた表現です。聖書で「淫行」という言葉は、肉体的な不誠実さと霊的な不誠実さの両方を表す言葉として使われており、ホセア1~2章、エレミヤ2:20、3:1~9、エゼキエル16:15~41、23:5~44などにも例があります。
また、ここで使われている「背信」という単語の原語(ヘブル語)は「メシュバー」で、「背教(apostasy)」とも訳すことができる言葉です。このことからも、この箇所が言及しているのは霊的な淫行であることがわかります。
以上のように考えると、世界統一宗教は真の神の礼拝を捨て、偽りの神を礼拝する偽の宗教であることがわかります。
また、この大淫婦は「大水の上に座している」(1節)と言われています。旧約聖書で「海」は異邦人世界を意味する言葉で、「大水(many waters)」は全世界の諸民族を支配することの比喩的表現です。このことは次の黙示録17:15でも確認できます。
また、御使いは私に言った。「あなたが見た水、淫婦が座しているところは、もろもろの民族、群衆、国民、言語です。
まとめると、黙示録17:1の「大淫婦」は全世界を支配する偽の宗教ということになります。
> 政教一致(2~3節)政教一致(2~3節)
近代国家は、基本的に政府が特定の宗教を支持しない「政教分離」を採用しています。しかし、反キリストが支配する世界統一政府は「政教一致」の国です。つまり、世界統一政府と世界統一宗教は一体となっています。
世界統一宗教は、「七つの頭と十本の角」を持つ獣の上に乗っている(3節)と言われています。「七つの頭と十本の角」とは、反キリストが君臨する世界統一政府を指しており(黙示録17:7~12)、宗教と政府が一体となって世界を支配していることが示唆されています。また、「地の王たち」と「淫行」を行うという表現(2節)でも、政治と宗教が切っても切れない関係にあることがわかります。
> 世界統一宗教はどのような宗教か(4節)世界統一宗教はどのような宗教か(4節)
「その女は紫と緋色の衣をまとい、金と宝石と真珠で身を飾り、……金の杯を手に持っていた」(4節)という表現から、世界統一宗教は大きな富を手にしていることがわかります。また、この衣装は、ローマ・カトリックやギリシャ正教といった伝統的教会の司祭を連想させます。こうした伝統的教会でも、世界統一宗教に属することなく、世界統一宗教による迫害を受ける側に立つ真の信者がいると思われますが、大多数は世界統一宗教の一部となることが予想されます。
現在、宗教間対話やエキュメニズム運動(教会一致運動)が積極的に推進されています。このような運動は一般的に良いものとみなされていますが、必ずしもそうとは言えません。最終的に世界統一宗教が完成すると反キリストの支配を助けることになるという黙示録の預言があるためです。宗教間、宗派間の一致を推進する運動が全世界に広がっている現在は、世界統一宗教が形成されつつある時代でもあるのです。
> バビロンが本拠地(5節)バビロンが本拠地(5節)
世界統一宗教は「大バビロン、淫婦たちと地上の忌まわしいものの母」(5節)とも呼ばれています。この「バビロン」を象徴的に解釈する説もありますが、これは字義通りに、現在のイラクにあるバビロンという地名を指していると解釈すべきです。それは、黙示録17:18で次のように言われているためです。
あなたが見たあの女は、地の王たちを支配する大きな都のことです。
この「女(大淫婦)」は、宗教でもあり、大きな都でもあります。ということは、世界統一宗教は、バビロンの都に本拠地を置く世界宗教であると考える必要があります。この点について、ユダヤ人神学者のアーノルド・フルクテンバウム博士は次のように語っています。1
世界統一宗教の本拠地は、偶像崇拝の母、再建された都市バビロンである。偶像崇拝と偽宗教は、ここから始まったからである(創世記11:1~9)。
The headquarters of this one-world religion will be the rebuilt city of Babylon, the mother of idolatry, for it was here that idolatry and false religion began (Gen. 11:1-9).
創世記11:1~9は、バベルの塔で人類が神に反抗した出来事が記されている箇所です。この出来事は「シンアルの地」で起こったと記されており(2節)、シンアルはティグリス川とユーフラテス川に挟まれた古代バビロンの地域を指します。人類最後の神への反抗が、人類最初の神への反抗が起こった場所で行われると考えると、聖書的に理にかなう解釈であることがわかります。
> 真の信者を迫害する(6節)真の信者を迫害する(6節)
この世界統一宗教は、「聖徒たち」「イエスの証人たち」と呼ばれる真の信者、クリスチャンを迫害し、殺害します(6節)。これを見てヨハネは「非常に驚いた」と記しています。これは、クリスチャンを迫害するのが偽の教会、背教の教会であるためだと思われます。いずれにせよ、真の神を礼拝しない人々は、世界統一宗教の一部となり、真の信者を迫害する側に立つことになります。
> 世界統一宗教のその後世界統一宗教のその後
患難期の前半に世界の宗教を支配する世界統一宗教ですが、その栄華は長く続きません。患難期の中間期に入ると、反キリストによって滅ぼされてしまうためです。黙示録17:16では、次のように言われています。
あなたが見た十本の角と獣は、やがて淫婦を憎み、はぎ取って裸にし、その肉を食らって火で焼き尽くすことになります。
「十本の角」(世界政府)と「獣」(反キリスト)は、「淫婦」(世界統一宗教)を世界支配に利用してきましたが、それも終わりを告げます。大患難時代の中間期になると、反キリストが神性宣言を行い、反キリストを礼拝することを要求する別の偽の宗教が出現するためです。用済みとなった世界統一宗教は、ここで滅ぼされることになります。
> 参考資料参考資料
- Arnold G. Fruchtenbaum, The Footsteps of Messiah: Revised 2020 Edition (Ariel Ministries, 2020)
- Andrew M. Woods, Babylon: The Bookends of Prophetic History (Dispensational Publishing House, 2021)
- Charles Ryrie, The Ryrie NASB Study Bible (Moody Publishers, 2008)
- 中川健一「ヨハネの黙示録(30)—宗教的バビロンの崩壊—」(https://message-station.net/episode/1323/)
-
Arnold G. Fruchtenbaum, The Footsteps of the Messiah – Revised Edition 2020 (Ariel Ministries, 2020) ↩
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