イランという国のかたち(1)イスラム神権国家 ~ 米・イスラエルが戦うイランとはどういう国か ~

イランという国のかたち(1)イスラム神権国家 ~ 米・イスラエルが戦うイランとはどういう国か ~

はじめに

2026年2月28日、米国とイスラエルが共同でイランに対する大規模な軍事作戦を開始した。米国側の作戦名は「エピック・フューリー(壮絶な怒り)作戦」、イスラエル側は「ライオンズ・ロアー(獅子の雄たけび)作戦」である。最初の攻撃により、最高指導者アリー・ハメネイ師、国防大臣、革命防衛隊(IRGC)司令官らを含む高官40人が殺害された。攻撃は核開発施設やミサイル基地を中心に行われ、イランの軍事インフラに甚大な被害を与えている。

日本の反応

日本のマスコミの報道やテレビのコメンテーターなどは、イスラエルと米国によるイランへの攻撃を国際法違反であるとして、イランを擁護する声が多い。また、イスラエルのネタニヤフ首相がイランを攻撃したのは、自身の汚職事件に関する訴訟から逃れるためだ、という陰謀論的な見方をする人も少なくない。

イスラエルの反応

一方、イスラエルの国内世論はまったく異なる。ネタニヤフ首相の汚職疑惑の真偽はともかく、イスラエル国内の調査(Israel Democracy Institute)によると、93%という圧倒的多数のイスラエルのユダヤ人がライオンズ・ロアー作戦を支持している1。同調査では、74%のユダヤ人が、軍事作戦の最高指揮官としてネタニヤフ首相を信頼しているとも回答している。

今回の攻撃を陰謀論的にとらえている人は、なぜイスラエルのユダヤ人が今回の戦争とネタニヤフ首相を支持しているのかが理解できないだろう。イスラエルが置かれている状況も、イランという国がどういう国かも知らないと誤った判断をしてしまう。

イランはどういう国か

イランは日本人が思うような「普通の国」ではない。イランという国を理解するためには、以下の2つの特徴を理解する必要がある。

  1. イスラム神権国家
  2. テロ支援国家

これら2つの特徴について、イラン憲法から解き明かしていきたい。憲法から解き明かすのは、以下に述べることがイランに批判的な評論家の主張ではなく、イラン政府自体が公言していることだということを示すためである。憲法を通してイランという国の基本原則を知ると、なぜイランが今のような動きをしているのかが見えてくる。また、なぜイランという国の行動を変えることが難しいのかということも同時にわかってくる。

今回の記事では、イランのイスラム神権国家としての性質を見ていく。次回の記事で、テロ支援国家としての性質を取り上げる。

MEMO
イラン憲法は、Comparative Constitutions Project(比較憲法プロジェクト:https://www.constituteproject.org/constitution/Iran_1989?lang=en )に掲載されている英訳を基本的に参照している。なお、ファルシ(ペルシャ)語原文はイラン国会のウェブサイトに掲載されている。

イランは神権国家

イランは、よく知られているように神権政治の国である。神権政治とは、国の政治や法律が「神(または宗教)」の権威に基づいて行われる国家体制のことであり、「神の意志」や「宗教の教え」が最終的なルールとなる。イランという国が「普通の国ではない」と言う最大の理由はここにある。

以下、イランが神権国家であることを定める憲法の条文を見ていこう。

1.イランの主権者

まず、イランの主権者は誰なのか。イラン憲法にはどのように書かれているか見ていこう。憲法前文は次のように始まる。

前文

慈悲深く慈愛あまねきアッラーの御名において……

Preamble

In the Name of Allah, the Compassionate, the Merciful…

イランの憲法が、アッラーの名において定められていることが冒頭に記されている。ここだけを読んでも特殊性を感じるだろう。さらに、憲法第2条では次のように述べられている。

第2条

イスラム共和国は、以下の信仰に基づく体制である。

  1. 唯一の神(「アッラーのほかに神はなし」という言葉に示される)、神の絶対的な主権と立法権、ならびに神の命令に服従することの必要性。

    Article 2

    The Islamic Republic is a system based on belief in:

    1.the One God (as stated in the phrase “There is no god except Allah”), His exclusive sovereignty and the right to legislate, and the necessity of submission to His commands;

ここでは、イランという国は神に「絶対的な主権」があると信じる信仰を土台としていることが明言されている。つまり、イランの主権は、国民ではなくアッラーにあるということである。また、法律を作る「立法権」もアッラーにあるとされている。この点は、イランの国会はイスラム法の範囲内でしか法律を作れないという仕組みに現れている(第94条)。さらに、憲法をよく読むと、イスラム法が憲法を上回る権威を持っていることもわかる(第4条)。これらはすべて、アッラーに主権があることの当然の帰結である。

2.国教:イスラム教シーア派の十二イマーム派

イランという国が信じる宗教も、憲法に明言されている。

第12条

イランの国教はイスラムであり、その宗派は(信仰の根本および法学において)十二イマーム派ジャアファル学派とする。この原則は永久に不変である。

Article 12

The official religion of Iran is Islam and the Twelver Ja’farî school [in usul al-Dîn and fiqh], and this principle will remain eternally immutable.

ここでは、イランの国教がシーア派の「十二イマーム派ジャアファル学派」であることが定められている。「十二イマーム派ジャアファル学派」とは、イスラム教シーア派の主流派で、一般に「十二イマーム派」と呼ばれる宗派である。

注目すべきは、この十二イマーム派が国教であることは「永久に不変である」と明言されている点である。そのため、イラン国民は本憲法の枠組みでは、別の宗教や宗派に宗旨替えすることも、特定の宗教を国教としない世俗国家を選ぶこともできない。実際に、憲法の第177条では、念押しをするように、国教を十二イマーム派以外に変えることが禁じられている。

つまり、憲法を変えない限り、イランの国家運営は十二イマーム派の教義に縛られることになる。そのため、イランという国を理解するには、十二イマーム派の教えも理解しておく必要がある。

十二イマーム派の教え

十二イマーム派の信者は、イラン、イラク、レバノン、アゼルバイジャンなどに多く分布している。十二イマーム派は、預言者ムハンマドの死後、ムハンマドの正当な後継者(イマーム)が全部で12人(12代)いると信じるシーア派の中心的教えで、以下のことを信じている。

  • イマームは神によって選ばれた特別な存在で、誤りのない権威(無謬性)を持つ。
  • 最後の第12代イマームは現在「隠れている」(隠れイマーム)。
  • この「隠れイマーム」は、世の終わりに再び現れる。これが「マフディ」と呼ばれる終末時代の救世主である。

それでは、マフディが現れるまでの間、イスラム世界(「ウンマ」と呼ばれるイスラム共同体)を統治するのは誰なのか。それはイスラム法学者である、というのがイランの十二イマーム派の見解である。このことは憲法第5条で次のように定められている。なお、以下に登場する「ワリー・アル=アスル」とは、「時代の守護者」という意味で、終末時代に再臨する隠れイマーム(マフディ)を指す。

第5条

ワリー・アル=アスル(神がその再臨を早められますように)が隠れておられる時代では、ウンマ(イスラム共同体)に対するウィラーヤ(後見権・統治権)と指導権は、公正にして敬虔なファキーフ(イスラム法学者)に委ねられる。ファキーフは、時代の情勢に十分精通し、勇敢で、機知に富み、行政能力を備えた者とし、第107条に従って、この職の責務を担うものとする。

Article 5

During the Occultation of the Walial-‘Asr (may God hasten his reappearance), the wilayah and leadership of the Ummah devolve upon the just [‘adil] and pious [muttaqi] faqih, who is fully aware of the circumstances of his age; courageous, resourceful, and possessed of administrative ability, will assume the responsibilities of this office in accordance with Article 107.

ここで言われていることをまとめると次のようになる。イスラム共同体の本来の正統な指導者はマフディである。しかし、マフディが隠れている間は、資格のあるイスラム法学者(ファキーフ)が、マフディの代わりにイスラム共同体を指導する。これが憲法第5条の定めていることである。

このイスラム法学者は、イラン憲法の他の条文では「指導者(ラフバル)」と呼ばれており、これが日本語で言う「最高指導者」にあたる。最高指導者の初代はホメイニ師、二代目がアリー・ハメネイ師(2026年2月のライオンズ・ロアー作戦で死亡)、そして現在は三代目のモジュタバ・ハメネイ師となっている。

このような憲法の規定から、イランが十二イマーム派の教えをそのまま国家体制に組み込んでいることがわかる。

3.宗教指導者への権限集中

ここまで、イラン憲法ではアッラーに主権があり、預言者ムハンマドの正式な継承者マフディが隠れている間は、最高指導者が代わってイスラム共同体を統治すると定められていることを見てきた。これを実現するために、イラン憲法は最高指導者に権限が集中するように作られている。次の条文に明記されているとおり、イラン憲法の下では、すべての権力が最高指導者の監督の下にある。

第57条

イスラム共和国における国家権力は、立法権、司法権、および行政権に帰属する。この三権は、本憲法の以下の条文に従い、絶対的なウィラーヤ・トゥル・アムル(イスラム法学者による統治権)およびウンマ(イスラム共同体)の指導者の監督の下で機能する。三権は相互に独立している。

Article 57

The powers of government in the Islamic Republic are vested in the legislature, the judiciary, and the executive powers, functioning under the supervision of the absolute wilayat al-‘amr and the Leadership of the Ummah, in accordance with the forthcoming articles of this Constitution. These powers are independent of each other.

「ウィラーヤ・トゥル・アムル(イスラム法学者による統治権)およびウンマ(イスラム共同体)の指導者」とは、要するにイランの最高指導者のことである。つまり、イランの三権(行政権、立法権、司法権)は、互いに独立しているが、すべて最高指導者(宗教的最高権威)の監督の下にあるということになる。

それでは、最高指導者は実際に行政、立法、司法をどのように掌握しているのだろうか。具体的に見ていこう。

行政

大統領選には、護憲評議会(Guardian Council)が認めた候補しか立候補できない。護憲評議会とは、12人の法学者で構成される機関で、メンバー構成は次のようになっている。

  • イスラム法学者6名:最高指導者が任命する。
  • 一般法学者6名:司法長官が指名し、国会で承認される。

ただし、司法長官は最高指導者が任命し、いつでも解任できるので、事実上、最高指導者が護憲評議会の任命権を握っていると言ってよい。大統領候補は護憲評議会が審査するため、最高指導者が認めた人物しか大統領になれない仕組みになっている。

MEMO
最高指導者は大統領を罷免することもできる。憲法第110条第10項では、最高裁判所が大統領の「職務上の義務違反」を認めた時、または国会が大統領の不信任を決議した時に罷免できると定められている。最高指導者は国会か最高裁判所の決定がないと大統領を罷免できないが、どちらかに影響力を行使すれば可能である。実際に、1981年に当時の最高指導者ホメイニ師は、国会の不信任決議の後、アボルハサン・バニーサドル初代大統領を罷免している。これは1989年に憲法が改正される以前の旧憲法下での出来事だが、基本的な仕組みは今も同じである。

立法

国会議員も、大統領と同じで、護憲評議会が認めた人物しか立候補できない。つまり、イランでは護憲評議会の承認を受けた人物しか、大統領にも議員にもなれない仕組みになっている。

また、国会を通過した法案は、すべて護憲評議会がイスラム法に合致しているかを審査する。この護憲評議会の承認を得て初めて法案が法律になる。そのため、護憲評議会はすべての法案に対して拒否権を持っていることになる(憲法第91条、94条)。

護憲評議会は最高指導者の権威の下にあるので、最高指導者が立法の拒否権を持っていると言ってもよいことになる。

司法

司法権の長である司法長官は、最高裁判所長官や検事総長の任命権を持っており、司法権を統括する立場にある。

その司法長官は、最高指導者が任命する(第110条、第157条)。国会の承認は必要なく、最高指導者の判断だけで任命できる。また、最高指導者は司法長官をいつでも罷免することができる。

このように、司法も最高指導者が実権を握っていることになる。

軍も、最高指導者の支配下にある。

第110条

以下は最高指導者の職務および権限である。

5.宣戦および講和の宣言、ならびに軍隊の動員。

6.以下の者の任命、解任、および辞表の受理。

 d.統合参謀本部長

 e.イスラム革命防衛隊の最高司令官

 f.各軍の最高司令官

Article 110

Following are the duties and powers of the Leadership:

5.Declaration of war and peace, and the mobilization of the armed forces.

6.Appointment, dismissal, and acceptance of resignation of:

 d. the chief of the joint staff.

 e. the chief commander of the Islamic Revolution Guards Corps.

 f. the supreme commanders of the armed forces.

これを見るとわかるように、イランの軍(国軍と革命防衛隊)は、大統領の指揮下にはなく、最高指導者の直属である。

このように見てくると、イランという国を掌握しているのは最高指導者であるということがわかる。一方で、イランの大統領が持つ権限は、米国の大統領が持つ権限とは比較にならないほど小さいこともわかる。そのため、イランの大統領や外相が外国の首脳と会談しても、大統領や外相には権限がない懸案も多い。たとえば、イランの大統領は革命防衛隊に対する指揮権を持っていないので、革命防衛隊が行っているテロ行為を止めてくれと大統領に要請しても、そもそも大統領にはその権限がないのである。

マスコミ

最高指導者は、イランのラジオとテレビネットワークのトップを任命することができる(憲法第110条第6項)。そのため、最高指導者はマスコミも掌握していることになる。また、マスコミはイスラムの基準と国家の利益にかなう運営をする必要があることも憲法に定められている(第175条)。

第175条

イラン・イスラム共和国のラジオおよびテレビにおける思想の表現と普及の自由は、イスラムの基準と国家の最善の利益に沿う形で保証されなければならない。

Article 175

The freedom of expression and dissemination of thoughts in the Radio and Television of the Islamic Republic of Iran must be guaranteed in keeping with the Islamic criteria and the best interests of the country.

最高指導者は、この規定に従って情報統制を行うことができることになる。

最高指導者は典型的な独裁者ではない

ここまで憲法を見てきて、イランでは最高指導者に権力が集中していることがわかった。ただし、イランの最高指導者は典型的な独裁者ではない、という点は押さえておく必要がある。

そもそも、イランの主権者はあくまでもアッラーである。最高指導者はイスラム法学者であるため、イスラム法とシーア派のイスラム学による縛りがある。そして最高指導者は、憲法の仕組みの中でイスラム法学者で構成される「専門家会議(Assembly of Experts)」と呼ばれる機関によって選ばれる(国民の選挙ではない)。

このような仕組みであるため、典型的な独裁国家のように、今の最高指導者がいなくなると国が立ちゆかなくなるということはない。最高指導者を暗殺しても、それだけで国家体制の転覆につながるわけではない。最高指導者がいなくなったとしても、専門家会議が次のイスラム法学者を最高指導者に立てればよいだけのことである。

MEMO
最高指導者を選出する専門家会議は、最高指導者を罷免することもできる(第111条)。ただし、専門家会議の候補者は、護憲評議会による審査を受ける。護憲評議会は最高指導者の権威の下にあるので、簡単に罷免できるわけではない(実際に罷免された事例はない)。

イランの民主主義は限定的

イランの憲法を見ていくと、イランは民主主義を一部採用していると言われるものの、その実態はかなり限定的であることがわかる。

すでに見てきたように、行政、立法、司法の三権は、すべて最高指導者の監督の下にある(憲法第57条)。そのため、最高指導者が国家のすべての権力を掌握していると言うことができる。また、最高指導者は国民ではなく、88人のイスラム法学者で構成される専門家会議が選ぶ。

MEMO
専門家会議のメンバーは、国民が選挙で選ぶことになっている。とはいえ、大統領や国会議員と同じで、専門家会議の候補者も、護憲評議会が認めた人物しか立候補できない。そして、護憲評議会は最高指導者の影響下にある組織である。つまり、最高指導者に選ばれるには、前任の最高指導者に選ばれている必要があるということである。そのため、最高指導者が国の実権を握っているという事実は揺るがない。

このように憲法を見ていくと、イランの民主主義は形式的なものであることがわかる。イラン政府の方針は、イラン国民の意思を反映しているわけではない。イラン政府の基本政策は最高指導者によって決められ、その最高指導者が従うのはイスラム法である。この点が、イランが日本人の思う普通の国とは大きく違うところであり、これを理解しないとイランという国を理解することはできない。

以上が、憲法を通して見たイランの神権国家としての特徴である。

いつからイランは今の体制になったか

イランは、昔から今のような体制であったわけではない。このような体制になったのは1979年の「イスラム革命」以降のことである。それ以前のパーレビ王朝時代のイランは、親米的な世俗国家であり、親イスラエル国家でもあった。実際に、イランは中東でトルコに次いで2番目に早くイスラエルの国家承認をした国だった(1950年3月6日)。

しかし、1979年を境に状況が一転する。イスラム革命によってホメイニ師が最高指導者に就任し、イランがイスラム教を国家の根幹に据える神権国家となったためである。この革命以降、イランの最高指導者は一貫してイスラエルに対する強い敵意をあらわにし、その破壊の意思を公然と表明するようになった。たとえば、イランの初代最高指導者のホメイニ師は、イスラエル(および米国)について次のような言葉を遺している。

イスラエルの独立案を支持、承認することは、イスラム教徒にとっては悲劇、イスラム諸国の政府にとっては破滅的な危機であると私は考える。イスラエルという占領国家は、その目標とともにイスラム教とイスラム諸国に対して大きな危険をもたらす。兄弟姉妹よ、アメリカとイスラエルは、イスラム教の根本原理に対する敵であることを知らなければならない。…イスラエルは歴史のページから抹消されなければならない

I regard supporting the plan for independence of Israel and its recognition a tragedy for the Muslims and an explosion for the Islamic governments. The usurper state of Israel with the aims it has pose great danger to Islam and the Islamic states. Brothers and sisters must know that America and Israel are enemies to the fundamentals of Islam… Israel must be eradicated from the page of history. ― “Sayings of Imam Khomeini about Palestine and Al-Quds” (https://www.imam-khomeini.com/web1/english/showitem_cid_2531_pid_2884.html)

このような言葉から、イラン最高指導者のイスラエルに対する敵意は、宗教的な信念にもとづくものであることがわかる。この認識は現在のイランでも変わっておらず、たとえば、2019年にイスラム革命防衛隊(IRGC)の元総司令官ホセイン・サラミは、「われわれの戦略は、世界の政治地図からイスラエルを抹消することだ」と語っている2。そのため、イランとの交渉では、現実的な条件で折り合いを付けることが極めて難しい。イスラエルに対して妥協することは、イスラムの教えに反するという認識があるためである。つまり、現在の神権政治が続く限り、イスラエルは自分たちの消滅を追い求めるイランという脅威に直面し続けることになる。

MEMO
イスラエルは、ユダヤ人がパレスチナ人の土地を奪って建国したものだと言われることがある。この認識に問題があることについては、記事「イスラエルに関するよくある誤解(1)イスラエルはパレスチナ人から土地を奪って建国された」を参照されたい。

結論

イスラエルが戦っているのはどのような国か? ここまで見てきたことを整理すると、次のようになる。

  • 主権者はアッラーである。
  • イスラム法が最高法規である。
  • 最高指導者が行政、立法、司法の三権を掌握している。
  • ただし、時の最高指導者がいなくなっても、国のあり方が変わることはない。
  • イスラム法と憲法が国のあり方を規定しているためである。
  • 民主主義を一部取り入れているが、国民が政治を決定しているわけではない。
  • イランでは国政選挙で誰が選ばれても、基本的に何も変わらない。
  • イラン政府のイスラエルに対する敵対心は宗教的確信にもとづくものである。

イランは、日本人がイメージするような「政権が変われば国の方針も変わる国」ではない。憲法そのものが、アッラーの主権とイスラム法学者による統治を「永久に不変」と定めているため、選挙でも、最高指導者の交代でも、国の根本方針は変わらない仕組みになっている。今回の戦争で最高指導者が殺害されても、すぐに次の最高指導者が立てられ、同じ方針が引き継がれる可能性が高いのはこのためである。

このように、イランという国の政治体制を憲法から紐解いていくと、イランの行動原理が見えてくる。イスラエルが直面しているのは、単なる敵対国ではなく、イスラム法に基づく宗教的使命を国家の根幹に据えた国家である。そして、イランは宗教的確信を持ってイスラエルを滅ぼそうとしている。この点を理解しないかぎり、なぜ93%ものユダヤ人が今回の作戦を支持しているのか、そしてなぜイスラエルが今これほどの決意をもってイランと戦っているのかを正しく理解することはできない。

同じ調査では、今回の軍事作戦(ライオンズ・ロアー作戦)を終了するタイミングに関するアンケートも行われている1。回答者は、次の2つの内のどちらかを選ぶことを求められた。

  1. 軍事目標(イランの核・弾道ミサイル能力の排除)が達成されるまで作戦を継続すべき
  2. 軍事目標に加え、最高指導者の体制を打倒するという政治的目標も達成されるまで作戦を継続すべき

イスラエルのユダヤ人の過半数(57%)は後者を選択し、軍事目標のみを達成した時点で作戦を中止すべきだと考えるユダヤ人は36%にとどまった。この結果は、イランの現体制がイスラエルにとってどれほど深刻な脅威と受け止められているかを示している。今のようなイランの体制が続く限り、イスラエルがどこまでも核兵器とテロの恐怖にさらされ続けるという認識が広く共有されているためである。

次回は、イランのもう一つの特徴である「テロ支援国家」としての性質を、同じく憲法から解き明かしていきたい。

参考資料

写真:Hansueli Krapf (CC BY-SA 3.0)

脚注

  1. Prof. Tamar Hermann, Dr. Lior Yohanani, Yaron Kaplan, “Overwhelming Majority of Jews (93%); Minority of Arabs (26%) Support Operation in Iran (total sample: 82%),” 04 Mar 2026 (https://en.idi.org.il/articles/63617) 2

  2. “Our strategy is to erase Israel from the global political map.” quoted in “Iran general says Tehran aims to wipe Israel off the ‘global political map’,” The Times of Israel, 28 Jan 2019 (https://www.timesofisrael.com/iran-general-says-tehran-aims-to-wipe-israel-off-the-political-map-report/)

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