パレスチナ国家の一方的樹立に向けて動き出すEU、米国、アラブ諸国

ベンヤミン・ネタニヤフ首相

10月7日のハマスによるテロ襲撃事件を受け、イスラエル軍がガザ地区で捕虜奪回とハマス解体を目指した作戦を行っている。イスラエル軍は着実にガザの制圧を進めている一方で、イスラム社会を中心に、国際社会のイスラエルに対する批判が増している。そのような中で、EU、米国、アラブ諸国が、イスラエルの合意がなくてもパレスチナ国家を樹立する案を検討し始めた。

EUによるパレスチナ国家の一方的樹立案

2024年1月18日に、欧州連合(EU)の外務大臣に該当するジョゼップ・ボレル(Josep Borrell)EU外務・安全保障政策上級代表は、イスラエル・パレスチナ紛争の平和的解決策にはパレスチナ国家の樹立が必要と述べ、イスラエルの合意なしに「外部から押し付ける」必要がある可能性を示唆した。ボレルは次のように語っている。

 「この30年間で私たちが学んだこと、そして今、ガザで経験した悲劇によって学んでいることは、解決策は外から押し付けなければならない、ということだ」とボレルは語る。
 ボレルはさらに米国、ヨーロッパ、アラブ諸国を指して、「平和は、国際社会がその実現のために徹底的に関与し、解決策を押し付けることによってのみ、永続的な形で達成される」と付け加えている。
― “EU: Must impose an end to the Israeli-Palestinian conflict,” JNS, 3 Jan 2024

“What we have learned over the last 30 years, and what we are learning now with the tragedy experienced in Gaza, is that the solution must be imposed from outside,” Borrell said.
“Peace will only be achieved in a lasting manner if the international community gets involved intensely to achieve it and imposes a solution,” he added, referring to the United States, Europe and Arab countries.

また、ボレルは次のようにも語っている。

「ひとつはっきりしていることは、イスラエルがパレスチナ人の自決に対する拒否権を持つことはできないということだ。国連はパレスチナ人の自決権を承認し、過去に何度も承認してきた。これに対して誰も拒否権を行使することはできない」
― AFP, “EU top diplomat says Israel can’t ‘have veto’ on Palestinian state,” The Times of Israel, 23 Jan 2024

“One thing is clear — Israel cannot have the veto right to the self-determination of the Palestinian people. The United Nations recognizes and has recognized many times the self-determination right of the Palestinian people. Nobody can veto it.”

ボレルの発言は、パレスチナ国家の樹立に対してイスラエルに口を挟ませないという意思表示であると同時に、国連安保理の常任理事国として拒否権を持つ米国に対する牽制にもなっている。

本来はイスラエルとパレスチナの当事者間交渉を中心に和平案を進め、当事者間で合意することが紛争解決の前提となってきた。この前提は、イスラエル・パレスチナ紛争に限らず、どの紛争でも基本的に同じである。しかし、ここに来て、EUが一方的なパレスチナ国家樹立を示唆したことは、大きな政策転換が行われる前兆と見ることができる。

ボレルは、親パレスチナ的な外交姿勢で知られるEUの中でも、特にイスラエルに批判的な言動で知られ、過去にはイスラエル政府から公式訪問を断られたこともある。しかし、このような思い切った発言は、過去にも例がない。

だが、イスラエルを交渉の場から外して紛争解決を目指す傾向が見られるのは、EUだけではない。

米国・アラブ諸国による包括的和平案

米国の『ワシントンポスト』紙は、イスラエル軍のガザ制圧後の秩序構築に向け、米国バイデン政権が中東諸国と包括的平和構築案をまとめようとしているとして、次のように報じている。

バイデン政権と少数の中東のパートナー諸国は、パレスチナ国家を樹立する期限の設定を含め、イスラエルとパレスチナ間で長期的な和平を構築するための詳細な包括的プランの作成を急いでいる。この案は早ければ数週間後に発表される見込みである。
― Karen DeYoung, Susannah George and Loveday Morris, “U.S., Arab nations plan for postwar Gaza, timeline for Palestinian state,” The Washington Post, 14 Feb 2024

The Biden administration and a small group of Middle East partners are rushing to complete a detailed, comprehensive plan for long-term peace between Israel and Palestinians, including a firm timeline for the establishment of a Palestinian state, that could be announced as early as the next several weeks.

この記事で「中東のパートナー諸国」と呼ばれているのは、エジプト、ヨルダン、カタール、アラブ首長国連邦、サウジアラビアなどの国々で、パレスチナ自治政府も交渉の場に招かれている。さらに、英国のデイビッド・キャメロン外相も、早期にパレスチナ国家を樹立することに賛意を表明している。しかし、この米国を中心とした和平案の作成でも、イスラエルは交渉の場から外されている。

ユダヤ紙のJNSは、バイデン政権がパレスチナ国家の樹立を急ぐ理由の一つに、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化交渉を挙げている。

 10月7日のイスラエル南部へのテロ襲撃事件以来、バイデン政権はイスラエルとサウジアラビア間の主要な国交正常化協定と地域安全保障構想の一環として、パレスチナ国家樹立を推進してきた。
 報道によると、パレスチナ問題は、ハマスの攻撃以前はイスラエル政府とサウジアラビア政府が緊張緩和を進める上での大きな障害とは見なされていなかった。しかし、バイデン政権の姿勢は明らかに変化し、サウジは国交正常化の前提条件としてパレスチナ国家の道筋をつけることを強調している。
ー Joshua Marks, “‘Biden Doctrine’: US reviews options for recognizing Palestinian state,” JNS, 1 Feb 2023 (https://www.jns.org/biden-doctrine-us-reviews-options-for-recognizing-palestinian-state/)

In the months since the Oct. 7 terrorist assault on southern Israel, the Biden administration has been pushing for Palestinian statehood as part of a major normalization pact and regional security initiative between Israel and Saudi Arabia.
The Palestinian issue was not reportedly seen as a major obstacle to a Jerusalem-Riyadh detente before the Hamas attack, but the Biden administration’s stance has apparently changed and the Saudis are emphasizing a pathway to a Palestinian state as a precondition for normalization.

米国がイスラエル抜きで中東諸国とパレスチナ問題の解決案を本格的に討議するというのは前代未聞のことである。先述の通り、従来の方針は、イスラエルとパレスチナの当事者間交渉で和平を実現することが大前提であったためである。このような状況は、EUだけでなく、親イスラエル的な米国の政策が大きく転換する前兆であると考えることもできる。

当然、このような動きに対して、当事者であるイスラエル政府は反発の姿勢を示している。

パレスチナ国家の一方的樹立に対するイスラエルの反発

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、パレスチナ国家の一方的承認案に対し、次のように語って反論している。

イスラエルは、パレスチナ人との永続的な和解に関して、国際社会の言いなりになることを断固として拒否する。そのような取り決めは、前提条件なしの当事者間の直接交渉によってのみ達成される。…イスラエルは、パレスチナ国家の一方的承認に反対し続ける。10月7日の大虐殺を受け、そのような承認を行うことは前例のないテロ行為に対してとてつもない報酬を与えることになり、将来の和平合意を妨げることになる。
― Charles Bybelezer, “Netanyahu: Recognition of Palestinian state would be ‘huge reward’ to terror,” JNS, 16 Feb 2024

“Israel categorically rejects international dictates regarding a permanent settlement with the Palestinians. Such an arrangement will be reached only through direct negotiations between the parties, without preconditions,” said Netanyahu.
“Israel will continue to oppose the unilateral recognition of a Palestinian state. Such recognition in the wake of the Oct. 7 massacre would give a huge reward to unprecedented terrorism and prevent any future peace settlement,” he added.

また、ネタニヤフ首相は、米国などの計画に反対し、ガザ地区制圧後の計画について次のように語っている。

ガザは非武装化し、イスラエルの完全な治安管理下に置く必要がある。ヨルダン川以西の全土の治安をイスラエルが完全に掌握するという点で妥協するつもりはない。
― David Isaac, “EU threatens ‘consequences’ for Israel’s opposition to Palestinian state,” JNS, 23 Jan 2024

Gaza must be demilitarized, under Israel’s full security control. I will not compromise on full Israeli security control of all territory west of the Jordan River.

『イスラエルトゥデイ』誌によると、世論調査では、イスラエル人の74%がユダヤ・サマリア地区(ヨルダン川西岸地区)にパレスチナ国家を樹立することに反対している。同誌は、2005年にパレスチナ自治政府に対してガザ地区の統治権を認め、ガザから撤退したことをイスラエル国民は後悔しているとして、次のように記している。

 ガザ撤退の壊滅的な結果を見れば、二国家共存案による和平実現という幻想を終わらせるに十分だとすでに多くの人々が主張していた。2005年に、イスラエルはアラブ側の要求に従い、ガザ地区からすべてのユダヤ人市民と国防軍を完全に撤退させ、ガザ地区は完全にパレスチナ人の支配下に置かれた。
 そのわずか1年後、ガザはハマスに制圧され、世界有数のテロリストの巣窟となった。その後の数年間、ハマスはイスラエルを日常的に攻撃するだけでなく、ガザに本格的な軍事力を築き上げることになった。この軍事力は「イスラエルを滅ぼす」というたった一つの目的のために存在している。
 これが、パレスチナ人に自分たちで統治できる領土を与えようとした結果だったのである。
― “Israelis: There can be no ‘Palestinian state’ after Oct. 7,” Israel Today, 12 Jan 2024

Many had already argued the disastrous results of Gaza “disengagement” was already enough to end the fantasy of a two-state solution leading to peace. In 2005, Israel fully withdrew all Jewish civilians and IDF troops from the Gaza Strip in accordance with Arab demands, leaving the coastal enclave fully under the control of the Palestinians.
Just a year later, Gaza was seized by Hamas and became the world’s foremost terrorist haven. In the ensuing years, Hamas not only carried out routine attacks on Israel, but built up a full-fledge military force in Gaza, a force with but one purpose: to destroy Israel.
This was the outcome of trying to give the Palestinians a territory to govern for themselves.

ネタニヤフ首相の右派内閣がパレスチナ国家樹立に強硬に反対していると報道されることが多いが、国民の7割がパレスチナ国家樹立に反対している現状では、左派政権が誕生したとしても国民を無視した政策を進めることはできないだろう。

イスラエルでは、10月7日のハマスによるテロ攻撃により、千二百名もの人が犠牲となった。ホロコースト以降としては1日で最多の死者を出したイスラエルが、ハマスのようなテロ組織が政権を取る可能性が高いパレスチナ国家の樹立を認めるとは考えられない(最後に行われた2006年のパレスチナ総選挙で、ハマスは第一党に選ばれている)。米国とアラブ諸国の包括的平和構築案がどのようなものになるかはまだ公表されていないが、イスラエル国民が納得するような内容である可能性は低い。

このように、現在、国際社会とイスラエルの間では、意見の乖離が大きくなっている。この現状は、聖書が語っている終末預言の状況に近付いていると言うことができる。

聖書預言

旧約聖書のヨエル書には、国際社会とイスラエルの対立、そして二国家並立案に代表されるイスラエル(パレスチナ)の土地の分割に関連する預言が記されている(ヨエル3:1~2)。

1 「見よ。わたしがユダとエルサレムを回復させるその日、その時、 2 わたしはすべての国々を集め、彼らをヨシャファテの谷に連れ下り、わたしの民、わたしのゆずりイスラエルのために、そこで彼らをさばく。彼らはわたしの民を国々の間に散らし、わたしの地を自分たちの間で分配したのだ

この預言で「わたし」と言われているのが、神である主(ヤハウェ)である。この箇所は、人類が世界規模で災害、戦争、圧政といった大きな苦難を通る「大患難時代」の最後に起こることの預言である。この預言では、「すべての国々」が「ヨシャファテの谷」と呼ばれるエルサレムの東にある谷(ケデロンの谷)に集められ、神のさばきを受けることが預言されている。また、すべての国々がさばかれる理由として、「わたしの地を自分たちの間で分配した」ことが挙げられている。この「わたしの地」とは、神がアブラハム、イサク、ヤコブに約束したカナンの地であり、現在のイスラエル(パレスチナ)の地である。つまり、この土地はイスラエル民族に約束された土地であると同時に、神ご自身の土地とも言われており、この地の分割が理由で神のさばきが下るという聖書預言である。

今はまだ大患難時代ではないが、現在のイスラエルをめぐる政治状況を見ると、大患難時代に預言されている状況に近付きつつある時代と言うことができる。また、ヨエルの預言から、次のことが言える。

  • 国際社会とイスラエルの対立は今後も続くことが予想される。
  • 国際社会の反イスラエル感情や反ユダヤ主義が高まっていくことが予想される。
  • 二国家解決案がもし実現したとしても、永続的な平和は来ない。
  • イスラエル(パレスチナ)の地の分割は、神のさばきが下る前触れとなる。

おわりに

預言が与えられている目的

旧約聖書のイザヤ46:9~10では、神ご自身が、ご自分が将来に起こることを前もって告げる理由を次のように語っておられます。

9 遠い大昔のことを思い出せ。わたしが神である。ほかにはいない。わたしのような神はいない。 10 わたしは後のことを初めから告げ、まだなされていないことを昔から告げ、『わたしの計画は成就し、わたしの望むことをすべて成し遂げる』と言う。

ここでは、私たちに聖書預言が与えられているのは、聖書の神が唯一真の神であり、それ以外に神はいないことを知るためであると言われています。そのため、厳しい預言であっても、そこには真の神を知る機会が与えられているという恵みの要素があります。

キリストにある希望

使徒ペテロは、紀元1世紀のユダヤ人に向かって「この曲がった時代から救われなさい」(使徒2:40)と語りました。この言葉は、現代に生きる私たちにも語られているように思います。

聖書では、神を知るための預言に加えて、どのような状況でも取り去られることのない希望を語っています。それがイエス・キリストの「福音」です。福音を信じる者には、すべての罪の赦しと、永遠のいのちが約束されています。キリストにある救いと希望は、すべての人に差し出されています。

参考資料

写真:The Kremlin, Moscow

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孤立を深めるイスラエルと2つのユダヤ社会 - 聖書ニュース.com

[…] 以前の記事「パレスチナ国家の一方的樹立に向けて動き出すEU、米国、アラブ諸国」でも示したように、米バイデン政権はイスラエルのネタニヤフ政権に対して強硬な姿勢を示し始めている。米国はイスラエルの同盟国で最大の理解者であるが、共和党よりも反イスラエル的である民主党政権であることもあって、米国政府はイスラエルと距離を取りつつある。 […]

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