イランという国のかたち(2)テロ支援国家 ~ 米・イスラエルが戦うイランとはどういう国か ~

イランという国のかたち(2)テロ支援国家 ~ 米・イスラエルが戦うイランとはどういう国か ~

はじめに

イランは「テロ支援国家」であると言われることがある。

たとえば、米国務省の報告書(2019年度)では、イランは「世界最悪のテロ支援国家」と呼ばれている1

一方、日本のマスコミでは「イランは親日国である」と好意的に紹介されることが多い。逆に、イランの核開発や軍事行動と対立する米国やイスラエルに対して批判的な論調が展開されることもある。しかし、そのような見方は、イランという国家の本質を十分に理解したものではないと言わざるを得ない。

もし米政府が主張するように、イランが長年にわたりテロ組織を支援してきた国家であるならば、イラン政府の対外政策を安易に肯定することは、結果としてテロ組織への支援を容認することにつながりかねない。

本稿では、イラン憲法を読み解くことで、なぜイランが「テロ支援国家」と呼ばれるのか、その思想的・制度的背景を確認していく。特に、イラン憲法が政府に課している以下の3つの国家的義務に注目したい。

  1. イラン革命の輸出
  2. イスラム世界統一共同体の形成
  3. 抵抗運動への支援

これらを順に見ていくことで、イランの対外行動の背後にある思想や国家理念が見えてくる。

イランはテロ支援国家である

イランがテロ支援国家であるという見方には、十分な歴史的根拠がある。

米国務省は1984年以来、一貫してイランをテロ支援国家に指定してきた。近年の報告でも、イランはイスラムテロ組織への支援を続けている国家として位置付けられている。

イランをテロ支援国家と呼ぶ理由は、大きく2つある。

第一に、イラン政府自身がテロに関与してきた歴史を持つことである。

イラン政府の関与が指摘されている事件としては、1992年のミコノス・レストラン暗殺事件、2011年のサウジ大使暗殺未遂事件、2018年のパリ近郊「Free Iran」集会爆破未遂事件などがある。特に2018年の事件では、イラン外交官アサドッラー・アサディがベルギーの裁判所で有罪判決を受けた(詳しくは付録1「イランが直接関与したとされるテロ事件」を参照)。

第二に、イランが国外の武装組織に対して、資金・武器・訓練・情報面で支援を行ってきたことである。

イランは長年にわたり、国外の武装組織を支援してきた。代表的な組織としては、以下が挙げられる。

  • ヒズボラ(レバノン)
  • パレスチナ・イスラム聖戦
  • フーシ派(イエメン)
  • ハマス(ガザ地区)

これらの組織は、米国など複数の国や機関によってテロ組織または制裁対象に指定されている。イランはこれらの組織に対し、資金援助、武器供与、軍事訓練、ミサイル技術支援などを行ってきた(付録2「テロ組織に対するイランの支援」を参照)。

こうした組織は、多数のテロ事件や武力攻撃を実行してきた。たとえば1983年のベイルート米海兵隊兵舎爆破事件、1994年のAMIAユダヤ共同体センター爆破事件、近年のフーシ派による紅海の商船攻撃などである(詳しくは付録3「イランが支援するテロ組織が関与したとされるテロ事件」を参照)。

特にイスラエルは、イランが支援する武装組織から継続的な攻撃を受けている。ロケット弾や迫撃砲による攻撃は2000年代以降急増しており、2023年10月のハマスによる対イスラエル奇襲攻撃以降は大規模な攻撃が繰り返されている(付録4「イスラエルが毎年受けているロケット攻撃」)。こうした攻撃の多くは民間地域を狙った無差別攻撃であり、国際法上も重大な問題を含んでいる。

では、なぜイランはこのような武装組織を支援し続けるのであろうか。単なる外交戦略なのだろうか。それとも、もっと深い国家理念が存在するのであろうか。

その答えを理解する鍵が、イラン憲法にある。

憲法が国のあり方を規定する

国家の行動様式は、良くも悪くも憲法によって方向付けられる。

たとえば、米国に日本のような銃規制が行われない背景には、憲法修正第2条によって武器を所持・携帯する権利が保障されているという事情がある2。また、日本が平和主義や国際協調主義を重視する背景には、日本国憲法の理念がある(憲法前文「日本国民は、恒久の平和を念願し・・・平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」など)。

同様に、イランの対外政策もまた、憲法によって強く規定されている。イランの革命輸出や武装組織支援は、一時的な政策ではない。憲法に組み込まれた国家理念なのである。

イラン憲法を見ると、先述のとおり、政府に対して以下の3つの方向性が与えられていることがわかる。

  1. イラン革命の輸出
  2. イスラム世界統一共同体の形成
  3. 抵抗運動への支援

以下、それぞれ確認していこう。

1.イラン革命の輸出

イラン憲法は、1979年のイスラム革命を守り、その理念を国外へ広げていくことを国家理念としている。

イラン憲法前文には、次のように記されている。

前文

イラン革命のイスラム的内実は、傲慢な者(ムスタクビルーン)に対するすべての抑圧された者(ムスタドアフィーン)の勝利を目指した運動であった。この内実に十分な配慮を払いつつ、本憲法は国内と国外における革命の継続を保証するために必要な基盤を提供するものである。

With due attention to the Islamic content of the Iranian Revolution, which has been a movement aimed at the triumph of all the mustad’afun over the mustakbirun, the Constitution provides the necessary basis for ensuring the continuation of the Revolution at home and abroad.

ここで重要なのは、「国内と国外における革命の継続」という表現である。つまり、イラン革命は国内だけで完結するものではなく、国外へ広げられるべきものとして定義されている。これが、いわゆる「革命の輸出」である。

イランの世界観

イラン革命を理解するうえで重要なのが、「ムスタクビルーン」と「ムスタドアフィーン」という概念である。どちらもコーランに由来する言葉で、以下のような意味がある。

  • ムスタクビルーン(Mustakbirun): 「傲慢な者」「抑圧する者」を指す。イラン革命の文脈では、「大サタン」と呼ばれる米国を中心とした大国や支配層を指す。イスラエルは、中東地域における米国の「手先」と考えられており、「小サタン」と呼ばれる。
  • ムスタドアフィーン(Mustad’afun): 「抑圧された者」「弱き者」「持たざる者」を指す。革命指導者ホメイニ師は、これを単なる経済的な弱者だけでなく、米国などの帝国主義に支配された民衆全般を指す言葉として多用した。

ホメイニ師は、世界を「抑圧する側」と「抑圧される側」に二分して理解した。イラン革命は、その「抑圧された者」の側に立つ革命として位置付けられたのである。

この二分法は、単なる宗教的修辞ではない。イランの外交政策、軍事政策、対外支援政策の根幹に組み込まれている思想である。

2.イスラム世界統一共同体の形成

イラン憲法の特徴は、自国の政治体制だけでなく、世界秩序そのものについても理念を語っている点にある。

憲法前文には、次のような記述がある。

とりわけ、国際関係が進展する中で、本憲法は、他のイスラム運動や民衆運動とともに、統一された世界共同体を形成する準備をし(これはコーランの言葉「本当に、あなたがたのこのウンマこそは、唯一の共同体である。そしてわれはあなたがたの主である。だからわれに仕えなさい※」〔21章92節〕に従うものである)、世界中のすべての権利を奪われ、抑圧された諸民族の解放のために闘争を継続することを約束するものである。

In particular, in the development of international relations, the Constitution will strive with other Islamic and popular movements to prepare the way for the formation of a single world community (in accordance with the Qur’anic verse “This your community is a single community, and I am your Lord, so worship Me” [21:92]), and to assure the continuation of the struggle for the liberation of all deprived and oppressed peoples in the world.

※コーランの翻訳には三田了一訳を使用。以下同様。

ここで言う「統一された世界共同体」とは、「ウンマ」を意味している。ウンマとは、イスラム教徒全体の共同体のことである。

つまり、イラン憲法は、国民国家を超えたイスラム共同体の形成を理想としているのである。

イスラム世界の統一

憲法11条では、さらに踏み込んだ規定が置かれている。

第11条

コーランの聖句「本当に、あなたがたのこのウンマこそは、唯一の共同体である。そしてわれはあなたがたの主である。だからわれに仕えなさい」(21:92)に従い、すべてのイスラム教徒は一つの共同体(ウンマ)を形成する。イラン・イスラム共和国政府は、すべてのイスラム諸民族の友好と団結を育むことを目指して基本政策を定める義務を負い、またイスラム世界の政治的・経済的・文化的な統一を実現するため、不断の努力を重ねなければならない。

Article 11

In accordance with the sacred verse of the Qur’an (“This your community is a single community, and I am your Lord, so worship Me” [21:92]), all Muslims form a single nation, and the government of the Islamic Republic of Iran has the duty of formulating its general policies with a view to cultivating the friendship and unity of all Muslim peoples, and it must constantly strive to bring about the political, economic, and cultural unity of the Islamic world.

ここでは、イラン政府に対して、イスラム世界の政治的・経済的・文化的統一を目指す努力が義務付けられている。

イスラム世界には、スンニ派とシーア派という大きな対立が存在する。それにもかかわらず、イラン憲法は、それらを超えてイスラム共同体を形成することを理想として掲げているのである。もっとも、現実にはこの理想と裏腹に、シーア派のイランとスンニ派の盟主であるサウジアラビアは中東の主導権を巡って長年対立しており、両国の代理戦争(イエメン)や直接的な衝突(イランによるサウジ製油所へのドローン攻撃など)は今も続いている。この条文は、イスラム世界をイラン主導で統一するという意味に理解する必要があるだろう。

神(アッラー)の法の支配の全世界への拡大

さらにイラン憲法は、軍にも宗教的使命を与えている。

憲法前文の軍に関する部分には、次のように書かれている。

イデオロギー軍。

国家の防衛力の編成と装備にあたっては、基本的条件として信仰とイデオロギーに十分に配慮する必要がある。イラン・イスラム共和国軍およびイスラム革命防衛隊は、この目標に沿って組織されるものとする。両軍は、ただ国境の防衛と維持に当たるだけではなく、「ジハード(聖戦)」というイデオロギー上の使命を神の方法によって実行する責任も負っている。すなわち、神の法の支配を世界全体に拡大する責任である(これはコーランの次の節に基づく。「かれらに対して、あなたの出来る限りの(武)力と、多くの繋いだ馬を備えなさい。それによってアッラーの敵、あなたがたの敵に恐怖を与えなさい」[8章60節])。

An Ideological Army.

In the formation and equipping of the country’s defence forces, due attention must be paid to faith and ideology as the basic criteria. Accordingly, the Army of the Islamic Republic of Iran and the Islamic Revolutionary Guards Corps are to be organized in conformity with this goal, and they will be responsible not only for guarding and preserving the frontiers of the country, but also for fulfilling the ideological mission of jihad in God’s way; that is, extending the sovereignty of God’s law throughout the world.

ここでは、軍の役割が単なる国防にとどまらず、「神(アッラー)の法の支配を世界全体に拡大する」ことにあるとされている。つまり、軍そのものが宗教的・革命的使命を帯びているのである。

MEMO
「イデオロギー」とは、社会や政治のあり方に関する思想のことである。たとえば、自由主義や共産主義もイデオロギーの一種である。ここで言う「イスラムのイデオロギー」とは、イスラム主義を意味している。これは、社会制度や政治体制をイスラム教の教えにもとづいて構築すべきだと考える思想である。

また、イスラム革命防衛隊(IRGC)とは、1979年のイラン革命後に創設された軍事組織であり、通常の正規軍とは別に存在している。革命体制の防衛と革命理念の維持を目的として設立された組織であり、現在でもイランの政治・軍事において大きな影響力を持っている。

イランの軍隊、特にイスラム革命防衛隊は、単なる軍事組織ではない。革命理念を国外へ拡大するための組織として設計されている。

こうした思想的背景が、後に中東各地の武装組織支援へとつながっていくのである。

ジハード(聖戦)による革命の輸出

イラン憲法では、イスラム法による支配を世界へ広げていく手段として、「ジハード(聖戦)」という概念が重視されている。そこでは、軍の役割は単なる国土防衛にとどまらず、軍事力を用いてイスラムの理念を国外へ拡大していくことにあるとされている。実際に、ここで引用されているコーランの句には、「かれらに対して、あなたの出来る限りの(武)力」を備え、「あなたがたの敵に恐怖を与えなさい」と記されており、軍事力の行使を前提とした使命であることがわかる。また、このようなイラン軍が任務とする活動範囲は、イスラム世界だけでなく、世界全体に広がっていることにも注意する必要がある。コーランの引用にある「かれら」とはイスラム教徒以外の異教徒を指すためである。つまり、イラン革命を輸出する先は、イスラム世界だけでなく、全世界に広がっている。

MEMO
ジハードには、自らの欲望や罪と戦う内面的な「大ジハード」と、武力闘争を意味する「小ジハード」という二つの意味がある。しかし、ここでは軍に関する規定の中で語られているため、武力闘争としての「小ジハード」を指していると考えられる。

このように、イラン憲法は軍に対して、国境防衛だけではなく、イスラム世界統一共同体の形成と、ジハードによる革命理念の拡大という使命を与えている。つまり、イラン軍は国境を越えて活動することを単に許可されているのではなく、むしろ宗教的・革命的義務として求められているのである。こうした国家理念が、現在のイランが「テロ支援国家」となった背景にある。

3.抵抗運動への支援

イラン憲法は、先述のとおり、ムスタクビルーン(傲慢な支配者)に抵抗するムスタドアフィーン(抑圧された者)を支援することを国家理念として掲げている。

第154条には、次のように定められている。

第154条

イラン・イスラム共和国は、人類社会全体にわたる人間の幸福を理想として掲げ、独立、自由、正義と真理による統治の実現を全世界の人々の権利であるとみなす。したがって、他国の内政に対するあらゆる形態の干渉を厳に慎みつつも、世界中のあらゆる地において、ムスタドアフィーン(抑圧された者)によるムスタクビルーン(傲慢な者・抑圧する者)に対する正義の闘争を支持する。

Article 154

The Islamic Republic of Iran has as its ideal human felicity throughout human society, and considers the attainment of independence, freedom, and rule of justice and truth to be the right of all people of the world. Accordingly, while scrupulously refraining from all forms of interference in the internal affairs of other nations, it supports the just struggles of the mustad’afun against the mustakbirun in every corner of the globe.

ここで注目すべきなのは、「内政干渉を慎む」と言いながら、同時に世界中の「抑圧された者」の闘争を支援すると宣言している点である。一見すると両立しがたい二つの原則が並べられているように見えるが、その背景には、近代的な主権国家観そのものを相対化するイラン独自の国家観がある。

ウェストファリア体制の否定

フィリピンのイスラム研究者・政治学者であるマンスール・リンバ(Mansoor L. Limba)は、次のように語っている。

…憲法の条項から読み取れるのは、イランの外交政策の原則における中心的テーマは、「ムスタドアフィーン(抑圧された者)が最終的にムスタクビルーン(傲慢な支配者)に勝利する」という教義だ、ということである。イランは主権国家であるが、近代思想が前提とするウェストファリア体制の国家観を受け入れていない。

It can thus be gleaned from the above-quoted provisions of the Constitution that a central theme of Iran’s foreign policy principles is the doctrine of the ultimate victory of the mustad‘afin over the mustakbirin. Iran is a sovereign state but it does not accept modernity’s essentialist conception of the Westphalian state.

ここで言う「ウェストファリア体制」とは、主権国家同士が互いの内政に干渉しないという近代国際秩序のことである。しかしイラン革命思想は、その枠組みを超えて、イスラム革命を世界へ拡大することを目指している。「ムスタドアフィーン(抑圧された者)が最終的にムスタクビルーン(傲慢な支配者)に勝利する」という教義が優先されるためである。

実際にイランは、レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派など、外国の武装組織を支援してきた。こうした支援は、イランにとって単なる地政学的戦略ではなく、革命理念の実践でもあるのだ。

ムスタドアフィーン(抑圧された者)への支援

さらに、イラン憲法第3条16項では、政府に次の義務が課されている。

第3条

…イラン・イスラム共和国政府は、持てるすべてのリソースを以下の目標に振り分ける義務を負う。

16.国の外交政策をイスラムの基準にもとづいて策定し、すべてのイスラム教徒に対する兄弟として責務を果たし、世界中のムスタドアフィーン(抑圧された者)を惜しみなく支援する。

Article 3

In order to attain the objectives specified in Article 2, the government of the Islamic Republic of Iran has the duty of directing all its resources to the following goals:

16.framing the foreign policy of the country on the basis of Islamic criteria, fraternal commitment to all the Muslims, and unsparing support to the mustad’afun of the world.

ここでは、「世界中のムスタドアフィーンを惜しみなく支援する」ことが政府の義務として明記されている。これが、様々なイスラムテロ組織に資金や武器を提供する法的根拠となっている。

イランは、ヒズボラやハマス、フーシ派などを、米国やイスラエルに抵抗する「ムスタドアフィーン(抑圧された者)」の組織として位置付けている。そのため、西側諸国から制裁を受けても、支援をやめようとしないのである。ムスタドアフィーンへの支援は、イラン・イスラム共和国の存在理由に関わることであるためだ。

ただ、こうした「抑圧された者」とされる組織が実際にしていることは、民間人に対する無差別テロや商船に対する無差別攻撃である。弱者のために立ち上がると言いながら、自分を守る術のない弱者を抑圧・殺害する結果になっていることは皮肉としか言いようがない。

結論

イランがテロ支援国家と呼ばれるのは、単なる政治的なレッテル貼りではない。

イラン政府は長年にわたり武装組織への支援を続けてきた。そして、その背景には、イラン憲法に組み込まれた革命思想と世界観が存在している。

イラン憲法は、革命の輸出、イスラム共同体の形成、そして「抑圧された者」の闘争支援を国家理念として掲げている。そのため、イランにとって米国やイスラエルとの対立は、一時的な外交対立ではなく、国家理念そのものに関わる問題となっている。たとえ軍事的打撃を受けても、イランが容易に方針転換できない背景には、このような憲法上の理念が存在するのである。

現在のイラン体制を変えるには、憲法改正か体制転換しかない。しかし、憲法改正の主導権は最高指導者にあり、また体制転換に対しても革命防衛隊などの強力な治安機構が立ちはだかる。そのため、体制変革はきわめて困難な課題となっている。

前回の記事で、イスラエル国民の半数以上が、イランの国家体制が変わるまで軍事作戦を継続すべきと考えているというアンケート結果を紹介した。イラン憲法を通してイラン・イスラム共和国という国を見ていくと、イスラエル国民の考えは合理的だということがわかる。この体制が続く限り、イスラエルに対するイスラムテロ組織の脅威がなくなることはないためである。そして、イラン国内の動きだけで体制転換が起きる可能性はきわめて少ないためである。

イスラエルのイランへの攻撃を国際法違反だと非難するのはたやすい。しかし、イランおよびイランの代理勢力がイスラエルに対して行ってきた国際法違反を考えると、イスラエルだけを批判するのはフェアではない。イランは、代理勢力を使ってイスラエルに継続的な戦争行為を行ってきたと考えることができるためである。この問題について軽々に発言する前に、状況をもっと深く知る必要があるだろう。

考察

米国はイスラエルや福音派によって対イラン戦へと引き込まれたのか

近年では、「米国はイスラエルや福音派勢力によってイランとの対立に引き込まれている」という見方がある。しかし、そのような理解は、イラン革命思想の本質を見誤っている。イラン体制の対米敵視は、米国側の出方とは別に、革命当初から一貫して掲げられてきた国家理念であるからである。イランはイスラエルを米国の「手先」と考えており、イスラエルとの対立の向こうに米国を見据えている。

ホメイニ師は、アメリカについて次のように語っている。

アメリカは、世界の抑圧され、虐げられた民衆の第一の敵である。…

世界は知るべきである。イラン国民およびイスラム諸国民が抱えるあらゆる困難は、外国勢力によって、アメリカによって引き起こされているのだと。イスラム諸国民および被支配国の非イスラム諸国民が直面している最も重大で痛ましい問題は、アメリカに関わるものである。

私たちの苦悩はすべてアメリカによってもたらされている。私たちの不幸はすべてアメリカの手によるものである。…コーラン、イスラム、そしてその聖なる預言者(預言者に祝福と平安あれ)の真の敵は、超大国、とりわけアメリカである。



America is the number-one-enemy of the oppressed and deprived peoples of the world…

Let the world know that any trouble that Iranian nation and Muslim nations have is caused by foreigners, by America. The most important and painful problem that Islamic nations and non-Islamic nations of the dominated states face concerns America. All of our distresses are caused by America. Our entire misery is by the hand of America… The real enemies of the Quran, Islam and its holy Prophet (SAW) are the superpowers, especially America.

このような思想は、現在のイラン体制にも受け継がれている。報道によると、今でもイランの教科書では「大サタン」である米国とイスラエルを滅すように教えているとされる3

イランの対外政策を理解するには、単なる地政学だけではなく、このような革命思想そのものを理解する必要がある。もし仮にイランが目の前の敵であるイスラエルを倒したとすると、その先には米国との対立が待ち受けている。ここには前回の記事で紹介したイランの十二イマーム派の終末思想も関係している。そのため、米国とイランの対立はいつ起きるかというタイミングの問題であって、最終的には避けることができない問題である。

MEMO
「もし仮にイランが目の前の敵であるイスラエルを倒したとすると」とは書いたが、聖書預言によるとそのようなことは起こらない。イスラエルとイランに関する聖書預言については、動画「イラン情勢に見る聖書預言の成就と展望 ― エレミヤ49章が語る裁きと希望」を参照してください。

日本はイランにどう向き合うべきか

日本では、イランはしばしば「親日国」として語られる。実際、イラン国民の対日感情には比較的良好な面があり、日本文化への好意的な反応も少なくない。しかし、国民感情と国家理念は別のものである。国家を動かしているのは、最終的には憲法や政治思想、国家戦略である。

本稿で見てきたように、イラン・イスラム共和国は、単なる一国の主権国家として自らを定義しているわけではない。イラン憲法は、革命の輸出、イスラム共同体の形成、そして「抑圧された者」の闘争支援を国家理念として掲げている。そこでは、近代国家が前提としてきた「主権国家」や「内政不干渉」という考え方よりも、イスラム革命の理念が優先されている。

この点を理解せずに、「イランは親日だから安全である」と考えるのは危険である。国際政治において、国家は感情だけで動くわけではない。とりわけイランは最高指導者の独裁体制であり、国民感情で動く国ではない(記事「イランという国のかたち(1)イスラム神権国家 ~ 米・イスラエルが戦うイランとはどういう国か ~」参照)。

また、日本とイランでは、国家の土台となる価値観そのものが大きく異なっている。日本国憲法は、信教の自由や国民主権、平和主義を重視している。一方、イラン憲法は、イスラム法を国家秩序の根幹に据え、国民の信教の自由や基本的な人権を著しく制限している。

たとえば、イラン憲法第13条では、ゾロアスター教、ユダヤ教、キリスト教のみが「唯一認められた宗教的少数派」とされている。実際には、バハイー教徒への迫害や、イスラム教からキリスト教へ改宗した人々への弾圧が国際的に問題視されてきた。これは、日本社会が当然視している「誰でも自由に宗教を選べる」という価値観とは大きく異なる。

もちろん、国家間外交においては、対話や経済関係も重要である。しかし同時に、日本人はイランという国家を、単なる「親日国」という感情論ではなく、その憲法や国家理念を含めて冷静に理解する必要がある。

イラン問題の本質は、単なる地政学ではない。そこには、「国家とは何か」「宗教と政治はどう関わるべきか」「国際秩序を何によって支えるべきか」という、より根本的な価値観の衝突が存在している。日本国憲法前文は「平和を愛する諸国民」との信頼関係を前提としている。しかし、イランの現在の体制を考えると、イランをそのような信頼関係を結べる相手の一つとみなすには、かなり難しい面があると言わざるをえない。

付録1「イランが直接関与したとされるテロ事件」

事件 場所 結果 直接関与したとされるイラン国家機関・要員
1990 カゼム・ラジャヴィ暗殺 スイス イラン反体制派1人死亡 イラン政府工作員・外交旅券保持者らの関与が指摘。スイスで捜査対象(JusticeInfo.net)。
1992 ミコノス・レストラン暗殺事件 ドイツ・ベルリン クルド系反体制派ら4人死亡 ドイツ裁判所は、イラン政治指導部の「特別作戦委員会」が命令し、情報省関係者が関与したと判断(Amnesty International)。
2011 サウジ大使暗殺未遂 米国ワシントンD.C. 未遂 米司法省は、イラン革命防衛隊コッズ部隊関係者が計画したとして起訴。米財務省も、殺害資金10万ドルがイラン革命防衛隊により承認されたと発表(司法省)。
2015 アリ・モタメド暗殺 オランダ・アルメレ イラン系反体制派1人死亡 オランダ情報機関AIVDは、イラン関与の「強い兆候」があると発表(english.aivd.nl)。
2017 アフマド・モラ・ニシ暗殺 オランダ・ハーグ アフワーズ系反体制派1人死亡 オランダ政府・AIVDは、2015年事件とともにイラン関与の強い兆候を指摘(english.aivd.nl)。
2018 パリ近郊「Free Iran」集会爆破未遂 フランス/ベルギー 未遂 ベルギー裁判所で、イラン外交官アサドッラー・アサディが爆薬を持ち込み、爆破計画に関与したとして有罪。(ウィキペディア) 。
2018 ASMLA指導者暗殺未遂 デンマーク 未遂 デンマーク当局は、イラン情報機関が反体制派暗殺を計画したと発表(ガーディアン)。
2018 MEK関連集会への攻撃計画 アルバニア 未遂 アルバニア警察は、イラン革命防衛隊コッズ部隊の「テロリスト・セル」が関与した計画を阻止したと発表(Voice of America)。
2025–2026 ユダヤ系標的の偵察・攻撃計画 ドイツ 起訴段階 ドイツ検察は、被告がイラン革命防衛隊と連絡し、ユダヤ系人物・施設への攻撃準備をしたとして起訴(AP News)。

付録2「テロ組織に対するイランの支援」

組織 イランによる主な支援
ヒズボラ 資金、武器、訓練、情報支援を行う。設立にはイランが関与している。イラン革命防衛隊を通じて支援されてきた代表的なイランの代理勢力。
イスラム聖戦 資金、武器、訓練、ロケット・ミサイル関連支援。米財務省系資料では、イラン支援ネットワークの主要な対象。
フーシ派 武器、ミサイル・ドローン技術、訓練、資金面の支援。国連安保理のイエメン専門家パネル資料でも、イランからフーシ派への武器供給問題が扱われている(国連)。
ハマス 資金、武器、訓練、軍事技術支援。米国務省は、イランがハマスやイスラム聖戦などに年間約1億ドルを提供してきたと報告している(アメリカン・ユダヤ人委員会)。

付録3「イランが支援するテロ組織が関与したとされるテロ事件」

組織 事件 主な被害 イラン支援との関係
1983 ヒズボラ系 米大使館爆破・ベイルート米海兵隊兵舎爆破 米兵241人など多数死亡 米政府・裁判所などは、ヒズボラとイラン支援の関与を認定・指摘(Reuters)。
1992 ヒズボラ アルゼンチン・イスラエル大使館爆破 29人死亡、242人負傷 イスラム革命防衛隊のコッズ部隊の指示でヒズボラが実行したとされる(AJC)。
1994 ヒズボラ AMIAユダヤ共同体センター爆破 85人死亡、300人以上負傷 アルゼンチン検察はイランが指示しヒズボラが実行したと主張。米国務省系資料もイラン・ヒズボラ関与を指摘(ウィキペディア)。
1996 サウジ・ヒズボラ/ヒズボラ系 コバール・タワー爆破 米兵19人死亡、372人負傷 FBIは「親イランのサウジ・ヒズボラ」構成員を起訴(Federal Bureau of Investigation)。
2023–現在 フーシ派 紅海の商船攻撃 商船100隻超が標的、船舶沈没・船員死亡 CFRはイラン支援で対イスラエル・商船攻撃が可能になったと説明。米政府はイランが作戦計画に深く関与したと述べた(外交問題評議会)。
2024 イラクの親イラン民兵連合 ヨルダンの米軍基地「タワー22」無人機攻撃 米兵3人死亡、40人以上負傷 米国防総省はイランが支援する民兵による攻撃と説明(U.S. Department of War)。

付録4「イスラエルが毎年受けているロケット攻撃」

以下は、イランが支援するテロ組織やイランからイスラエルに打ち込まれたロケット弾(迫撃砲を含む)の数である。

ロケット・迫撃砲
2001 4発
2002 35発
2003 155発
2004 281発
2005 179発
2006 974発
2007 783発
2008 2,084発
2009 158発
2010 103発
2011 375発
2012 1,632発
2013 39発
2014 4,225発
2015 24発
2016 15発
2017 29発
2018 1,119発
2019 1,295発
2020 133発
2021 4,425発
2022 1,115発
2023 7,581発
2024 12,455発
合計 39,228発

出典:”Rocket & Mortar Attacks Against Israel by Year” (https://jewishvirtuallibrary.org/rocket-mortar-attacks-against-israel-by-year?ios_app=true&utm_source=chatgpt.com)

参考資料

脚注

  1. 日本経済新聞「イランは『世界最悪のテロ支援国家』 米報告書が非難」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60760480V20C20A6000000/)

  2. 米憲法修正第2条「規律ある民兵は、自由な州の安全にとって必要であるから、人民が武器を所持し、かつ携帯する権利を侵してはならない」

  3. David Spector, “Iran releases vile school textbooks teaching children to destroy ‘Great Satan’ US and Israel,” New York Post, 25 Apr 2026 (https://nypost.com/2026/04/25/world-news/iran-released-vile-textbooks-instructing-children-to-destroy-great-satan-us-and-israel/?utm_source=chatgpt.com)

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