聖書には、世界の歴史を支配してきた原則が記されています。それが「アブラハム契約の祝福とのろい」の約束です。この原則は、世界史の流れを知る上でも、今後の国際情勢を読み解く上でも重要な視点を提供してくれます。
前回は「アブラハム契約の祝福とのろい」の約束の聖書的根拠と、この約束の成就を聖書から見ました。今回は、聖書時代以降の歴史上で成就した事例を紹介し、このような約束が与えられている理由について考えてみたいと思います。
> アブラハム契約の祝福とのろいの約束が実現した歴史上の事例アブラハム契約の祝福とのろいの約束が実現した歴史上の事例
アブラハム契約の祝福とのろいの約束が実現した例は、聖書の中だけで見られるものではありません。世界史の出来事を見ていくと、アブラハム契約の成就としか考えられない事例が数多く見つかります。
スペイン帝国の例
スペイン帝国は、「無敵艦隊」と呼ばれる海軍を持ち、世界中に植民地を持つ大帝国でした。スペインがポルトガルと結んだトルデシリャス条約(1494年)では、子午線を境界線として世界の東側の新領土はポルトガル、西側はスペインのものとすることが定められたほどでした。 今もブラジルを除く南米の国がすべてスペイン語を話している事実を見ても、スペインの誇った勢力がわかります。
このスペインの凋落が始まったのが、1492年のユダヤ人追放令です。この命令で、スペイン王国は国内のユダヤ人全員に国外追放令を出しました。しかし、ユダヤ人には優秀な学者、医者、銀行家が多数いて、彼らがスペインの繁栄を支えていたため、これ以降、スペイン経済の凋落が始まります。
その後、1588年のアルマダの海戦で英国海軍と戦ったスペインの無敵艦隊は、英国軍に敗北したのに加え、嵐による難破で壊滅状態となります。それ以降、スペインは植民地を次々に失い、世界の覇権を失っていくことになります。
大英帝国の例
英国は、ユダヤ人に対する寛大な政策により繁栄し、「日の沈まない大英帝国」と呼ばれるほど全世界に領土を持つ覇権国家となりました。そして、ユダヤ人であるベンジャミン・ディズレーリ首相の時代に、スエズ運河とインドが英国の支配下に入るなど、繁栄を極めます。また、第一次世界大戦中の1917年に出されたバルフォア宣言で、ユダヤ人のナショナルホーム(祖国)をパレスチナの地に建設することを認めた後、トルコに勝利してパレスチナの地の統治権を得ることになります。
ユダヤ人のナショナルホームを建設するという前提で、国連から委任を受けてパレスチナの統治を始めた英国でしたが、実際に統治し始めると、パレスチナの地へのユダヤ人の移民を制限し始めます。第二次世界大戦中、ナチスドイツの手から逃れてパレスチナの地への移住を願うユダヤ人が何十万といましたが、英国政府の制限のために移民がかなわず、多くが強制収容所で命を落としました。そして、第二次世界大戦以降はインドをはじめとする植民地が次々に独立し、大英帝国は没落していくことになります。
スペインも英国も、ユダヤ人に寛容な時代には栄えましたが、反ユダヤ的な政策を取り始めると衰退していったという点で共通しています。ここにも、ユダヤ人を祝福する者は祝福され、のろう者はのろわれるという約束の成就を見ることができます。
アメリカ合衆国の例
スペインでユダヤ人追放令が出された1492年は、コロンブスがアメリカ大陸を目指して出帆した年でもありました。コロンブスの船がアメリカ大陸に上陸した時、最初にアメリカ大陸を発見したのは、ルイス・ド・トーレスというユダヤ人でした。ヨーロッパがユダヤ人に門戸を閉ざしていく一方で、アメリカ大陸が世界中から迫害を逃れてやって来るユダヤ人の最大の受け入れ先となりました。
アメリカ合衆国は、宗教的迫害を逃れて移民してきたピューリタンが多かったため、宗教的自由が重視されていました。そのため、宗教的迫害を受けてきた多くのユダヤ人は、米国で自由を見出すことになります。
米国建国の父で、初代大統領となったジョージ・ワシントンは、ロードアイランド州にあるユダヤ人のシナゴーグに次のような手紙を送っています。
この地に住むアブラハムの子孫が、ほかの住民の好意をこれからも受け続けるように。ここでは誰もが自分のぶどうの木やいちじくの木の下に安心して座り、恐れを与えるような者はいません。
May the Children of the Stock of Abraham, who dwell in this land, continue to merit and enjoy the good will of the other Inhabitants; while every one shall sit in safety under his own vine and figtree, and there shall be none to make him afraid. 1
このように、ワシントンは旧約聖書のミカ4:4を引用し、ユダヤ人(「アブラハムの子孫」)に対して、ほかの宗教団体に認められているのと同じ宗教的自由と保護を与えることを約束しました。そのため、米国は世界最大のユダヤ人人口を抱える国となり、繁栄を謳歌することになります。米国の繁栄は、アブラハム契約の祝福を受けた結果と考えることができます。
ただ、近年の米国では、若い世代の間ではイスラエルではなく、パレスチナを支持する世論が広がっています。全米各地の大学ではパレスチナを支持するデモが起きています。今後、イスラエルとユダヤ人に対する米国の態度がどのように変化していき、どのような結果となるのか、注視していく必要があります。
> アブラハム契約の祝福とのろいの約束が成就する聖書預言の例アブラハム契約の祝福とのろいの約束が成就する聖書預言の例
聖書預言の中でも、アブラハム契約の祝福とのろいの約束が成就することが預言されているものがあります。その一つが「ゴグとマゴグの戦い」と呼ばれる終末預言です。
ゴグとマゴグの戦い
旧約聖書のエゼキエル38~39章に記されている「ゴグとマゴグの戦い」の預言では、終末時代にロシアを中心とする諸国連合がイスラエルに侵攻することが預言されています。
この戦いで、イスラエルに侵攻する諸国は、神の超自然的な介入によって滅びることが預言されています。エゼキエル39:1~5には次のように記されています。
1 「人の子よ、あなたはゴグに向かって預言せよ。『【神】である主はこう言われる。メシェクとトバルの大首長であるゴグよ、わたしはおまえを敵とする。 2 わたしはおまえを引き回し、おまえを駆りたて、北の果てから上らせ、イスラエルの山々に連れて来る。 3 おまえの左の手から弓をたたき落とし、右の手から矢を落とす。 4 おまえと、おまえのすべての部隊、おまえとともにいる国々の民は、イスラエルの山々に倒れ、わたしはおまえをあらゆる種類の猛禽や野獣の餌食とする。 5 おまえは野に倒れる。わたしがこれを語るからだ──【神】である主のことば──。」
また、その結果、イスラエルの民と異邦人諸国は、イスラエルの神「ヤハウェ(主)」が、生きて働かれる真の神であることを知るようになることが預言されています(エゼキエル39:6~7)。
6 わたしはマゴグと、島々に安住している者たちに火を放つ。彼らは、わたしが【主】であることを知る。 7 わたしは、わたしの聖なる名をわたしの民イスラエルの中に告げ知らせ、二度とわたしの聖なる名を汚させない。諸国の民は、わたしが【主】であり、イスラエルの聖なる者であることを知る。
以上でわかるように、アブラハム契約の祝福とのろいの約束は、世界の歴史の流れを理解する上でも、今後の国際情勢を読み解く上でも重要な指針となる聖書的原則です。
> イスラエルの選びの意味イスラエルの選びの意味
アブラハム契約の祝福とのろいの約束を見ると、なぜユダヤ人だけ特別扱いなのかと憤る方もおられるかもしれません。しかし、神がアブラハム、イサク、ヤコブを選び、イスラエル民族を選びの民とされたのは、神がえこひいきをしておられるからではありません。新約聖書のローマ2:11で、「神にはえこひいきがない」と言われているとおりです。
方法としての選び
イスラエルの選びは、全人類を祝福する「方法としての選び」です。創世記12:3で「地のすべての部族は、あなたによって祝福される」と言われていたように、神は地上のすべての民を祝福する器とするためにイスラエルを選ばれたのです。
イスラエルの選びの目的の一つは、「神の証人となる」というものです。旧約聖書のイザヤ43:10~12で、神はイスラエルの民に次のように語っています。
10 あなたがたはわたしの証人、──【主】のことば──わたしが選んだわたしのしもべである。これは、あなたがたが知って、わたしを信じ、わたしがその者であることを悟るためだ。わたしより前に造られた神はなく、わたしより後にも、それはいない。 11 わたし、このわたしが【主】であり、ほかに救い主はいない。 12 このわたしが、告げ、救い、聞かせたのだ。あなたがたのうちに、異なる神はいなかった。だから、あなたがたはわたしの証人。──【主】のことば──わたしが神だ。
イスラエルは、聖書の神「ヤハウェ(主)」が唯一の神であり、唯一の救い主であることの証人となり、そのことを人類に教えるために選ばれた民です。そのため、私たちはイスラエルを通して、神が確かにおられることがわかるようになるのです。
プロイセン(ドイツ)のフリードリヒ大王(1712年~1786年)は、ある日、「神の存在を証明するものは何か」と侍従医にたずねたことがありました。この問いに対して、侍従医は「陛下、ユダヤ民族が今も存在し続けていることです」と答えています。まだイスラエルが建国されていなかったこの時代、国を失って千数百年も離散しながらも、民族として生き残り、成功していたユダヤ人の不思議を目にしていたためです。
フランスの政治哲学者、ジャン・ジャック・ルソー(1712~1778年)も、ユダヤ人について次のような言葉を残しています。
ユダヤ人は驚くべき景色を見せてくれる。(古代王国の)ヌマ、リュクルゴス、ソロンの律法は死んだが、それよりはるかに古いモーセの律法はまだ生きている。アテネ、スパルタ、ローマは滅び、その民はすべて地上から消え去ったが、シオンは滅んでもその子らを失うことはない。ユダヤ人はあらゆる国と交わるが、その中で消滅することは決してない。もはや指導者を持たないが、それでもなお民族であり、もはや国を持たないが、それでもなお市民である。
The Jews present us with an outstanding spectacle: the laws of (the ancient kingdoms) of Numa, Lycurgus and Solon are dead; the far more ancient ones of Moses are still alive. Athens, Sparta, and Rome have perished and all their people have vanished from the earth; though destroyed, Zion has not lost her children. They mingle with all nations but are never lost among them; they no longer have leaders, yet they are still a nation; they no longer have a country and yet they are still citizens…2
イスラエル不滅の秘密
聖書の「アブラハム契約の祝福とのろい」の約束を知らない人にとっては、ユダヤ人は何か得体の知れない存在に映ることがあります。ユダヤ人は、迫害を受けて滅びに定められているように見えても、寄留の地で繁栄し、迫害していた側が滅びるという不可思議な歴史が繰り返されてきたからです。
なぜ今もユダヤ民族が滅びずに存在しているのかという謎について、作家のマーク・トウェインは次のように記しています。
そのことを説明しようとすれば、徒労に終わるか、説明できなくても無理もないと言われる。エジプトも、バビロンも、ペルシアも、全地を満たし、栄華を極めたが、やがて停滞が訪れ、歴史の表舞台から消えていった。その後、ギリシアとローマが興り、世界を席巻したが、今やその影も形もない。その後も次々に諸民族が歴史の表舞台に登場し、一時期文明の光を放ったが、その光はやがて失せ、斜陽が訪れ、歴史から姿を消していった。ユダヤ人はそうした諸民族の興亡を目撃しつつ、それを尻目に今日まで生き延びてきた。そして、今もかつてと変わらず、衰退することも衰弱することもなく、その活力や進取の精神を失うこともない。万物には終わりがあるが、ユダヤ人だけは例外だ。どのような権勢を誇る者もやがて過ぎ去ってゆくが、ユダヤ人だけは生き残る。ユダヤ人が不滅であることの秘密は何か。 3
この問いに対する一つの答えは、アブラハム契約にあります。神は、アブラハム契約を通して、ユダヤ人を人類を祝福するための器にしようと定められたからです。ユダヤ人が今も滅ぼされていないということは、神が全人類を祝福することをあきらめていないという証拠でもあります。
> まとめまとめ
聖書が語る「アブラハム契約の祝福とのろい」の約束は、世界の歴史を貫く歴史的原則と言うことができます。この原則は、現在、また未来の国際情勢にも適用されるものです。
この約束は、ユダヤ人のためだけのものではなく、ユダヤ人以外の異邦人を含むすべての人類を祝福するためのものです。「わたしは、あなたを祝福する者を祝福し、あなたを呪う者をのろう。地のすべての部族は、あなたによって祝福される」(創世記12:3)と言われているとおりです。
そして、この祝福は、人々がイスラエルを通して真の神を知り、救い主であるイエス・キリストを信じる信仰に導かれるためのものでもあります。新約聖書のガラテヤ3:8~9、14では、次のように言われています。
8 聖書は、神が異邦人を信仰によって義とお認めになることを前から知っていたので、アブラハムに対して、「すべての異邦人が、あなたによって祝福される」と、前もって福音を告げました。 9 ですから、信仰によって生きる人々が、信仰の人アブラハムとともに祝福を受けるのです。… 14 それは、アブラハムへの祝福がキリスト・イエスによって異邦人に及び、私たちが信仰によって約束の御霊を受けるようになるためでした。
「約束の御霊」とは、聖霊のことです。聖霊は、救われて永遠のいのちが与えられていることの保証です。人は、キリストを救い主として信じることで、世界の歴史を動かしてきたアブラハム契約の祝福を受ける者となり、神の救いに入れられるのです。これが聖書の語る福音です。
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George Washington, “From George Washington to the Hebrew Congregation in Newport, Rhode Island, 18 August 1790,” Founders Online ↩
-
Jean Jacques Rousseau, Rousseau’s private writings, quoted in La Religion de J.J. Rousseau by Pierre Maurice Masson (1906) ↩
-
Mark Twain, “Concerning the Jews” in The Man That Corrupted Hadleyburg and Other Stories and Essays (New York: Harper & Bros., 1900), P. 281 ↩