「アブラハム・ファミリー・ハウス」がオープン ― 世界に広がる宗教間一致運動の預言的意味

アブラハム・ファミリー・ハウス

アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで、2月16日に「アブラハム・ファミリー・ハウス」の開幕式が行われた。アブラハム・ファミリー・ハウスは、キリスト教の教会、イスラム教のモスク、ユダヤ教のシナゴーグが並び立つ礼拝施設である。

アブラハム・ファミリー・ハウスは、首都アブダビの500メートル沖合にあるサディヤット島に位置する。サディヤット島は、現在急ピッチで開発が進められているリゾート島で、ルーブル・アブダビ博物館や、ニューヨーク大学アブダビ校、バークリー音楽大学アブダビ校などが集まる一大文化センターにもなっている。

MEMO
アブラハム・ファミリー・ハウスの設立趣旨や経緯については、過去の記事「キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の礼拝施設が並び立つ『アブラハム・ファミリー・ハウス』が2022年中に完成」を参照されたい。

アブラハム・ファミリー・ハウスが持つ歴史的意味

アブラハム・ファミリー・ハウスのオープンは、新しい時代を開く一大イベントとなった。ユダヤ教とイスラム教の礼拝施設がアラビア半島の同じ敷地内に建設されるなど、これまでは想像もできなかったことだ。特に、4回の戦争を戦ってきたイスラエルとアラブ諸国の関係を思うと隔世の感がある。これが画期的なことであることは、アブラハム・ファミリー・ハウスに建設されたモーゼス・ベン・マイモン・シナゴーグが、UAE初の公式なユダヤ教会堂であることでもわかる。

アブダビ首長国の副首相兼内務相のサイフ・ビン・ザーイド・アル・ナヒヤンは、ツイッターでアブラハム・ファミリー・ハウスの開幕式を動画付きで次のように発表している。

アブダビにオープンしたアブラハム・ファミリー・ハウスは、人類の友愛をいっそう深めるというシェイク・モハメド・ビン・ザーイド殿下(訳注:UAEの大統領)のビジョンを反映したものです。この施設は、相互尊重と平和的共存というUAEの価値観を体現しています。

アブラハム・ファミリー・ハウスは、UAEだけでなく、今という時代を象徴する施設でもある。このような宗教間一致を推進する施設が、世界の各地に広がっているためである。

世界に広がる宗教間一致の動き

ドイツの「ハウス・オブ・ワン」

ドイツのベルリンでも、「ハウス・オブ・ワン(House of One)」と呼ばれるアブラハム・ファミリー・ハウスと同様の施設が建設中である。この施設は、2021年5月27日に礎石が据えられ、2025年の完成予定で建設が進んでいる。総工費4700万ユーロ(2023年3月24日現在の為替レートで65億8千万円)をかけた巨大施設になる予定だ。

この施設について、英紙『ガーディアン』は次のように報じている。

ベルリンに、ユニークな施設が誕生する。ユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒が、シナゴーグ、教会、モスクをひとつ屋根の下に集めた礼拝堂の建設を計画しているのだ。3つのセクションは、建物の中央にある共同の部屋で結ばれている。この部屋は集会所として、参拝者や一般の人々が集まり、宗教と互いについてより深く学べるようになっている。
― Harriet Sherwood, “Christians, Muslims and Jews to share faith centre in BerlinThe Guardian, 21 Feb 2021

Berlin is soon to become home to something truly unique. Jews, Christians, and Muslims are planning to build a house of worship here – one that brings a synagogue, a church, and a mosque together under one roof. The three separate sections will be linked by a communal room in the center of the building. This will serve as a meeting place, where worshippers and members of the public can come together and learn more about the religions and each other.
ハウス・オブ・ワンの完成予想図
ハウス・オブ・ワンの完成予想図

このプロジェクトの立ち上げに関わったキリスト教神学者のローランド・シュトルテ氏は、次のように語っている。

アイデアはいたってシンプルです。この3つの宗教が、それぞれのアイデンティティを保ちながら共存できるような、祈りと学びの家を作りたかったのです。
― Harriet Sherwood, “Christians, Muslims and Jews to share faith centre in BerlinThe Guardian, 21 Feb 2021

“The idea is pretty simple. We wanted to build a house of prayer and learning, where these three religions could co-exist while each retaining their own identity.”

また、ハウス・オブ・ワンは、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の合同施設というだけではない。先ほども紹介したように、ここで開催されるイベントには、その他のさまざまな宗教や教団、また無宗教の人々も招待される。ガーディアン紙は次のようにも記している。

「ハウス・オブ・ワン」は、ペトリプラッツにある聖ペテロ教会の跡地に建設される。この教会は第二次世界大戦で被害を受け、1964年にドイツ民主共和国(訳注:東ドイツ)当局によって取り壊された。10年以上前に教会の基礎が発見されたとき、その場所に記念館や新しい教会を建てることが検討された。「しかし、私たちは今日のベルリンを映し出すような、新しいタイプの神聖な建物を作りたかったのです。発起人は代理人としての役割を担っています。これは一神教クラブではありません。私たちは、他の宗教にも参加してもらいたいのです」とシュトルテは語る。
― Harriet Sherwood, “Christians, Muslims and Jews to share faith centre in BerlinThe Guardian, 21 Feb 2021

The House of One will be built on the site of St Peter’s church in Petriplatz, which was damaged during the second world war and demolished in 1964 by the GDR authorities. When the foundations of the church were uncovered more than a decade ago, consideration was given to a memorial or a new church on the site. “But we wanted to create a new kind of sacred building that mirrors Berlin today,” said Stolte. “The initiators are acting as placeholders. This is not a club for monotheistic religions – we want others to join us.”

キリスト教とイスラム教の指導者と連携し、ハウス・オブ・ワンのビジョンを現実のものにしたユダヤ教のラビ、アンドレアス・ナハマは次のように語っている。

神への道はさまざまありますが、それぞれが良い道なのです。…これは単なるシンボルではありません。私たちの間に憎しみがないことを示す、新しい時代の始まりなのです。
― Harriet Sherwood, “Christians, Muslims and Jews to share faith centre in BerlinThe Guardian, 21 Feb 2021

“There are many different ways to God, and each is a good way…It is more than a symbol. It is the start of a new era where we show there is no hate between us.”

「ハウス・オブ・ワン」(一つの家)という名には、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の三大宗教を中心として、さまざまな宗教が一つになる場所という意味が込められている。

また、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教が共に信仰のルーツとして認めるアブラハムゆかりの地にも、宗教間一致を推進する施設が建設されようとしている。

ウルの「宗教間対話センター」

イラクのウルと言えば、創世記に登場するアブラハムが生まれた地として知られる。このウルで「宗教間対話センター(Interfaith Dialogue Center)」と呼ばれる施設の建設が2022年7月から始まっている。この建設について、シリアのメディア『SyriacPress』は次のように報道している。

イラクのジーカール県(訳注:ウルがある県)は、「宗教間対話センター」の建設を開始すると発表した。このセンターには、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、サバタイ派の礼拝堂に加え、宗教間対話ホールと共同広場が備わっている。宗教間対話センターは、イラクで最も重要な考古学的宗教地域の一つであるウルの街に建設される。
ー “Interfaith Dialogue Center to be opened in Ur, Iraq,” SyriacPress, 18 Jul 2022

UR, Iraq — The Governorate of Dhi Qar in Iraq announced the beginning of construction of an Interfaith Dialogue Center that will include Christian, Islamic, Jewish, and Sabadean houses of worship, in addition to an interfaith dialogue hall and forum. The Interfaith Dialogue Center is being constructed in the city of Ur, one of the most important archaeological religious areas in the country.

ウルでは、ローマカトリックのフランシス法王が2021年3月にイラクを初訪問した際に宗教間対話を行っており、2022年の10月にも同様の宗教間対話がバグダッドで開催された。

ウルを訪問したイラクとバチカンの宗教間対話代表団
ウルを訪問したイラクとバチカンの宗教間対話代表団

このような宗教間対話がイラクで推進されていることには理由がある。宗教間対話センターについて報道したトルコの『Al-Monitor』紙は、次のように記している。

 宗教間対話は、宗教的過激派組織「イスラム国」(IS)との紛争の結果、重要性が増している。ISは、2014年から2017年にかけてイラクを蹂躙し、約600万人が住む場所を追われた。
8月8日に、イラク外務省のサフィア・タレブ・アル・スハイル次官は、ミッチャ・レスコヴァル駐イラク・バチカン市国大使と会談した。スハイル次官は『Al-Monitor』紙に次のように語っている。
「イラク外務省は、ムスタファ・アル=カーズィミー首相の後援とフアード・フセイン外相の指導の下、平和、国際協力、共存の促進を目的に、バチカンおよび多くの国々や国際機関と協力、連携し、首都バグダッドで国際宗教間対話フォーラムを開催することになりました。これは、昨年のバグダッド会議の成果の一つです」
ー Adnan Abu Zeed, “Iraq to hold interfaith dialogue with Vatican participation,” Al-Monitor, 11 Aug 2022

Interfaith dialogue has gained more importance as a result of the conflict with the religious extremist Islamic State (IS) organization, which invaded Iraq between 2014-2017 and left about 6 million people displaced from their places of origin.
On Aug. 8, Undersecretary of the Iraqi Ministry of Foreign Affairs Safia Taleb al-Suhail met with Ambassador of the Vatican City State to Iraq Mitja Leskovar.
Suhail told Al-Monitor, “The Iraqi Ministry of Foreign Affairs, under the auspices of Prime Minister Mustafa al-Kadhimi and the guidance of Foreign Minister Fouad Hussein, will host an international interfaith dialogue forum in the capital, Baghdad, in cooperation and coordination with the Vatican and a number of countries and international institutions with the aim of promoting peace, international cooperation and coexistence, which were among the outcomes of the Baghdad conference last year.”

イラクは、イスラム国(IS)に蹂躙された国土を復興するために、宗教間対話を通して国内を一致させようとしている。

世界統一宗教の預言

現在は、平和と共存のために宗教間の一致が求められる時代である。これ自体はすばらしいことである。ただ、聖書の預言からすると、終末時代が深まっている証拠でもある。聖書では、終末時代には世界統一宗教が宗教界を支配することが預言されている。そして、この世界統一宗教は、世界統一政府に利用され、全体主義的な支配のための道具になる。さらには、クリスチャンに対する迫害をもたらすとも預言されている。黙示録17:6で「私は、この女(訳注:世界統一宗教)が聖徒たちの血とイエスの証人たちの血に酔っているのを見た」と記されているためである。

MEMO
世界統一宗教に関する預言の詳細については、「終末預言を読み解く:世界統一宗教」を参照されたい。

アラブ世界の救い

ただ、宗教間対話がもたらすものは世界統一宗教だけではない。これまでキリスト教に門戸を閉ざしていたイスラム教国で聖書の福音を語ることが可能になることも意味する。また、イスラム教徒がキリスト教に心を開きつつある証拠でもある。実際に、ニューヨークタイムズベストセラー作家のジョエル・ローゼンバーグは自著で次のように語っている。

しかし、今日でも、主要メディアは完全に見逃しているが、刺激的で劇的な霊的な革命がイスラム世界全体で進行している。中東の(語られていない)大きなストーリーは、今日、人類の歴史上で最も多くのイスラム教徒がキリストに立ち返っているということである。そして、この現象の多くは9/11(訳注:2001年9月11日の同時多発テロ)以降に起こっている。
ー Joel Rosenberg, Epicenter 2.0: Why the Current Rumblings in the Middle East Will Change Your Future (Tyndale House Publishers, 2006), p.214

But even today, an exciting and dramatic spiritual revolution that is being completely missed by the mainstream media is under way throughout the Islamic world. The big (untold) story in the Middle East is that more Muslims are turning to Christ today than at any other time in human history, and much of it has happened since 9/11.

ローゼンバーグは、2001年の同時多発テロ以降に大量のイスラム教徒がキリストに立ち返るようになったと語っているが、これはイスラム諸国で宗教間対話が活発になった時期と重なっている。

また、現在はイスラム国家である国も、終わりの日には聖書の神を礼拝するようになる。旧約聖書のイザヤ書19:23~25では、次のように預言されている。

23  その日、エジプトからアッシリアへの大路ができ、アッシリア人はエジプトに、エジプト人はアッシリアに行き、エジプト人はアッシリア人とともに主に仕える。  24  その日、イスラエルはエジプトとアッシリアと並ぶ第三のものとなり、大地の真ん中で祝福を受ける。 25  万軍の【主】は祝福して言われる。「わたしの民エジプト、わたしの手で造ったアッシリア、わたしのゆずりの民イスラエルに祝福があるように。」 

ここでいう「アッシリア」は、現在のシリアと北イラクにあたる。アッシリアはバビロン帝国に滅ぼされて今は存在しない国だが、首都はニネベにあった。ニネベは、現在でいうとイスラム国(IS)に占領されていたモスルである。シリアも、内戦で荒廃し、今も復興にはほど遠い状態の国である。しかし、これらの国は、イスラエルと同様に、民族的な救いを経験し、神(ヤハウェ=主)の祝福を受けることになる。これが聖書が預言していることである。神は、人間には想像もできないみわざを行われる。

今は、サタンの計画も進行しているが、神の計画も同時進行している。機会が与えられているうちに、福音を信じ、キリストの救いを受け入れる人が起こされることを願う。

参考資料

写真:
ハウス・オブ・ワンの完成予想図:(c) Associazione no profit Combo (CC BY-NC-SA 3.0 IT)
ウルを訪問したイラクとバチカンの宗教間対話代表団:イラク外務省

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