ゴグとマゴグの戦い(エゼキエル戦争)が起きるタイミング

終末預言

旧約聖書のエゼキエル38~39章では、「ゴグとマゴグの戦い」と呼ばれるイスラエルに対する侵略戦争が起こることが預言されています。この戦争は「エゼキエル戦争」とも呼ばれます。

MEMO
ゴグとマゴグの戦いに参加すると預言されている国については、記事「ゴグとマゴグの戦い(エゼキエル戦争)の参加国」の解説をご覧ください。

この記事では、このゴグとマゴグの戦いが起こるタイミングを聖書から読み解きたいと思います。このイスラエルに関する預言がいつ成就するかによって、今という時代の理解と今後の世界情勢の見方が大きく変わってくるためです。イスラエルの置かれている状況は、今人類の歴史がどのような段階に入っているかを知るためのしるしとなります。米国の有名な伝道者、ウィリアム・ブラックストーンが次のように語っているとおりです。1

イスラエルは神の日時計である。神の年代記の中で自分たちの置かれている場所、大きな出来事の流れの中で自分たちが今いる位置を知りたければ、イスラエルを見よ。

Israel is God’s sun dial. If anyone desires to know our place in God’s chronology, our position in the great march of events, look at Israel.

ゴグとマゴグの戦いのタイミングに関する説

ゴグとマゴグの戦いが起こるタイミングについては、以下のような説があります。

  1. 大患難時代に入る前(患難期前説)
  2. 大患難時代の前半(患難期前半説)
  3. 大患難時代の中間期(患難期中期説)
  4. 大患難時代の最後/ハルマゲドンの戦い(患難期後/ハルマゲドン説)
  5. 大患難時代から千年王国への移行期(移行期説)
  6. 千年王国の最後(千年王国後説)

以上の説はすべて、現在(2021年12月24日時点)から見て将来のことです。

ゴグとマゴグの戦いは過去にすでに起こっているとする説もあります。しかし、聖書を見ても、歴史を見ても、エゼキエル38~39章に記されているような戦争は起こったことがありません。また、次のエゼキエル38:16で言われているように、この戦いは「終わりの日に、そのことは起こる」とされていますので、終末時代に起こることは明らかです。

まずは、ゴグとマゴグが起こるタイミングに関する各説を検討する前に、基本的事実を抑えておきます。

基本的事実の確認

エゼキエル38~39章から、この戦争が起きる直前の状況と起こった後の状況を確認します。

戦争前の状態

この戦争が起きる直前の状況は、エゼキエル38章の前半に記されています。エゼキエル38:8、11~12には、次のように記されています。

8  多くの日が過ぎて、おまえ(注:マゴグの首長ゴグ)は徴集され、多くの年月の後、おまえは、一つの国に侵入する。そこは剣から立ち直り、多くの国々の民の中から、久しく廃墟であったイスラエルの山々に集められた者たちの国である。その民は国々の民の中から導き出され、みな安らかに住んでいる。 …
11 こう言うだろう。「私は無防備な国に攻め上ろう。安心して暮らす平穏な者たちのところに侵入しよう。彼らはみな城壁もなく住んでいる。かんぬきも門もない」と。12  それは、おまえが略奪し、獲物をかすめ奪うため、また今は人の住むようになった廃墟と、国々から集められて地の中心に住み、家畜と財産を所有した民とに向かって手を伸ばすためだ。

ここでは、エゼキエル戦争直前のイスラエルの状態が記されています。この箇所から、以下のことがわかります。

  • 長い離散の後、ユダヤ人がイスラエルの地に戻っている(8節「多くの国々の民の中から、久しく廃墟であったイスラエルの山々に集められた者たち」)。
  • イスラエル国家は戦争を体験してきたが、それを乗り越えている(8節「そこは剣から立ち直り、…国である」)。
  • イスラエルが国家として存在している(11節「国に攻め上ろう」)。
  • 荒廃していた土地が、今ではユダヤ人が住むようになり、繁栄している(12節「家畜と財産を所有した民」)。
  • イスラエルは城壁のない町で安心して暮らしている(11節「私は無防備な国※に攻め上ろう。安心して暮らす平穏な者たちのところに侵入しよう。彼らはみな城壁もなく住んでいる。かんぬきも門もない」)。

※新改訳2017の11節で「無防備な国」と訳されている部分は、だいたいの英語訳聖書(ASV、NASV、NIV、KJVなど)では「land of unwalled villages」と訳されており、直訳すると「壁に囲まれていない村々の地」となります。この記事では、英語訳聖書の意味を採用します。

MEMO
新改訳2017で「無防備な国」と訳されている原語は「ペラザー」で、ヘブライ語辞書の『Brown–Driver–Briggs』によると「open region, hamlet, unwalled village, open country」(平原、村落、壁に囲まれていない村、開かれた国)という意味です。そのため、新改訳2017の「無防備」は訳として勇み足のように思います。現代の町は、城壁はなくても、イスラエルのアイアンドームのようなミサイル防衛システムでしっかり防備されていることがあるためです。ちなみに、新共同訳では「囲いのない国」と訳されています。

戦争後の状態

ゴグとマゴグの戦いは、神の介入によって侵略軍が壊滅することで終わります(エゼキエル38:18~23)。その時、ゴグとマゴグの軍隊はイスラエルの各地で死体となり、その武器は放置されたままになります。エゼキエル39:9~12には、そのような戦争後の状態が記されています。

9 イスラエルの町々の住民は出て来て、武器、すなわち、盾と大盾、弓と矢、手槍と槍を燃やし、それらで火をおこす。彼らは、七年間それらで火を燃やす。 10 彼らは野から薪を運んだり、森から木を切り出したりする必要はない。武器で火を燃やすからだ。彼らは略奪した者たちから略奪し、かすめ奪った者たちからかすめ奪う──【神】である主のことば。
11 その日、わたしは、イスラエルのうちに、ゴグのために墓場となる場所を設ける。それは、海の東にある去りゆく者たちのための谷である。そこは通行人の道をふさぐ。そこにゴグと、その大軍すべてが埋められ、そこはハモン・ゴグの谷と呼ばれる。 12 七か月間、イスラエルの家は、その地をきよめるために彼らを埋め続ける

この箇所を見ると、戦後の処理として、イスラエルは以下を行うことが預言されています。

  • イスラエルの民は、放置されている敵の武器を7年間かけて燃やす(9~10節)。
  • 各地にころがる敵兵の死体を7か月間かけて埋葬する(11~12節)。

以上がゴグとマゴグの戦いのタイミングを判断するために重要な情報となります。それでは、それぞれの説を検討していきましょう。

患難期前説

患難期前説は筆者が支持する立場です。それには次のような理由があります。

エゼキエルの描写が現在のイスラエルと一致する

先ほど引用したエゼキエル38:8、11~12の以下のような描写は、現在のイスラエルの状況とぴったり一致します。

  • 長い離散の後、ユダヤ人がイスラエルの地に戻っている。
  • イスラエルが国家として存在している。
  • イスラエル国家は戦争を体験してきたが、それを乗り越えている。
  • 荒廃していた土地だったが、今ではユダヤ人が住むようになって繁栄している。
  • イスラエルは城壁のない町で安全に暮らしている。
  • アラブ首長国連邦などのアラブ諸国と国交を正常化し、関係が改善している。
  • ハイテク産業が発達して経済が急成長している上に、ガス田の発見でエネルギー輸出国となり、食料自給率90%以上を達成するなど、経済安全保障の観点で国力が充実している。
  • 世界で最も先進的なミサイル防衛システム「アイアンドーム」を持つなど、軍事力も充実している。

MEMO
ただ、テロや周辺国の脅威にさらされているイスラエルが「安全に暮らしている」と言えるのかという点で、患難期前説はよく批判されます。この点については後ほど詳しく見ます。

7か月の埋葬と7年間の武器を燃やす期間が十分にある

以下に説明するように、患難期前説であれば、イスラエルが7か月かけて敵兵の死体を埋葬し、7年間かけて武器を燃やす期間が十分にあります。ただし、以下に説明するように、この期間が患難期の後半にかからないように、大患難時代が始まる少なくとも3年半前には、ゴグとマゴグの戦いが起こる必要があります。

また、患難期前説には、その他の説にあるような決定的な問題がありません。以下では、他の説の問題点を説明していきます。

患難期前半説と患難期中期説の問題点

大患難時代の初めや中間期にゴグとマゴグの戦いがあるという説の問題点は、イスラエルに放置された敵の武器を燃やす7年間が、患難期の後半にかかってしまうことです。しかし、イスラエルは大患難時代の中間期に荒野に逃れると預言されているので、それは不可能です。マタイ24:15~16では次のように言われています。

15 それゆえ、預言者ダニエルによって語られたあの『荒らす忌まわしいもの』が聖なる所に立っているのを見たら──読者はよく理解せよ── 16 ユダヤにいる人たちは山へ逃げなさい。

ここで預言されているのは、大患難時代の中間期に反キリストがエルサレムの神殿に自分の偶像を安置することです(ダニエル9:27)。そうなったら山に逃げなさいというのがイエスのユダヤ人に対する指示です。そして、ユダヤ人が実際にそうすることは、患難期のイスラエルについて預言した黙示録12:1、6、13~14を見ればわかります。

1 また、大きなしるしが天に現れた。一人の女が太陽をまとい、月を足の下にし、頭に十二の星の冠をかぶっていた。 … 6 女は荒野に逃れた。そこには、千二百六十日の間、人々が彼女を養うようにと、神によって備えられた場所があった。 …
13 竜は、自分が地へ投げ落とされたのを知ると、男の子を産んだ女を追いかけた。 14 しかし、女には大きな鷲の翼が二つ与えられた。荒野にある自分の場所に飛んで行って、そこで一時と二時と半時の間、蛇の前から逃れて養われるためであった

この「女」は、ヨセフの夢(創世記37:9~11)から、イスラエルを指していることがわかります。そして、イスラエルが逃れる場所も具体的に預言されていて、それがヨルダンにあるボツラという場所(現在のペトラ)です(ミカ2:12の文語訳参照)。このように、イスラエルの民は、患難期後半にはイスラエル国内にいないことになります。

以上のように見ていくと、患難期中期説と患難期前半説は聖書の記述に合わないということになります。

患難期後/ハルマゲドン説の問題点

患難期後/ハルマゲドン説の問題点は、患難期最後に起こるハルマゲドンの戦いにはすべての国が参加すると言われていることです。黙示録16:14~16では、イスラエルを攻撃するために全世界の王が招集されると言われています。

14 これらは、しるしを行う悪霊どもの霊であり、全世界の王たちのところに出て行く。全能者なる神の大いなる日の戦いに備えて、彼らを召集するためである。 15 ──見よ、わたしは盗人のように来る。裸で歩き回って、恥ずかしい姿を人々に見られることのないように、目を覚まして衣を着ている者は幸いである── 16 こうして汚れた霊どもは、ヘブル語でハルマゲドンと呼ばれる場所に王たちを集めた

一方、ゴグとマゴグの戦いに参加する国は、エゼキエル38章で具体的に挙げられています(記事「ゴグとマゴグの戦い(エゼキエル戦争)の参加国」を参照)。そのため、大患難時代の最後にあるハルマゲドンの戦いがゴグとマゴグの戦いであるとする患難期後/ハルマゲドン説は、エゼキエル38章の記述と合いません。

また、この説には、戦争後の7か月の埋葬期間と7年間の武器を燃やす期間が、千年王国の時代と重なってしまうという問題点もあります。それでは、千年王国のイスラエルを描写したイザヤ2:2~4、イザヤ11:6~9、イザヤ65:17~25、ミカ4:1~5などの記述と合わなくなります。

移行期説の問題点

大患難時代から千年王国への移行期にゴグとマゴグの戦いが起こると主張する移行期説も、聖書の記述と合いません。大患難時代から千年王国までの移行期間は、75日しかありません(ダニエル12:7、11、12)。そのため、戦争が終わってからの7か月の埋葬期間と7年間の武器を燃やす期間が、患難期後/ハルマゲドン説と同様、千年王国の時代にかかることになります。また、移行期説には、ハルマゲドンの戦いで世界中の軍隊を率いる反キリストが倒れた後に、またイスラエルを攻めてくる軍隊があるなど、そのほかにも辻褄が合わない点があります。

千年王国後説の問題点

千年王国後説は、ゴグとマゴグの戦いを千年王国後に起こるサタンに対する戦いと同一視するものですが、次の問題点があります。

まず、エゼキエル38:15では、ゴグとマゴグの軍隊が「北の果て」からイスラエルに攻めてくると言われていますが、千年王国後の戦争について記した黙示録20:8では、「地の四方」の諸国民がイスラエルに攻めてくると言われています。

また、7か月の埋葬と7年間の武器を燃やす期間が、新天新地(黙示録21章)の時代にかかってしまうことも問題点です。黙示録21:1では「新しい天と新しい地を見た。以前の天と以前の地は過ぎ去り」と言われていますので、この説では聖書の記述と合わなくなります。

また、エゼキエル39:22では、次のように言われています。

22 その日以降、イスラエルの家は、わたしが彼らの神、【主】であることを知る。

この節は、ゴグとマゴグの戦いの描写が終わった後に書かれています。そのため、ゴグとマゴグの戦いの時点では、イスラエルはまだ民族的救いにあずかっていないことがわかります。そのため、イスラエルがすでに民族的な回心をした後である千年王国後説(および移行期説)は、聖書の記述とは合いません。

MEMO
フルクテンバウム師は、エゼキエル39:17~29はゴグとマゴグの戦いではなく、患難期最後のハルマゲドンの戦いのことであると解釈しています。この点については機会があれば解説したいと思っています。いずれにせよ、ゴグとマゴグの戦いの時点では、イスラエルが民族的救いを体験していないことは確かです。

患難期前説に対する批判

以上で、患難期前説以外の説には決定的な問題があることを説明しました。ただ、先ほども少し触れたように、患難期前説に対しても批判があります。その主なものは、エゼキエル38:11では、ゴグとマゴグの戦いが起こるのはイスラエルが「安心して暮らす」状態の時であると言われているが、現在のイスラエルはそのような状態にないという批判です。

「安心して暮らす」の意味

患難期前説に反対する人々は、ハマスなどのテロ組織の無差別攻撃や、周辺諸国との紛争にさらされているイスラエルは「安心して暮らす」とはほど遠い状態にあることを理由に批判してきました。

この点を検討するため、まず「安心して暮らす」の原文での意味を考察してみましょう。ここでは、「平和に」暮らしているという客観的な表現ではなく、「安心して」暮らしているという主観的な表現になっています。この「安心して」の原語(ヘブル語)は「ベタッハ」で、「自信(confidence)を持って」とも訳せます。つまり、自国の軍事力や国力に自信を持っている時に攻撃を受けるという解釈が可能です。厳しい状況に置かれていても、それを克服する自信を持って暮らしているのであれば、「安心して暮らす」という描写が当てはまります。

また、イスラエルの周辺状況が今、変わりつつあります。記事「アブラハム合意の預言的意味」で取り上げたように、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)との国交正常化を皮切りに、アラブ諸国との間で関係改善が急速に進んでいます(2021年12月時点で、UAE、バーレーン、スーダン、モロッコと国交正常化している)。エゼキエル38:13では、イスラエルに対するゴグとマゴグの侵略に対して、アラブ諸国(「シェバやデダン」)が反対の声を上げると預言されていることも、この動きを裏付けています。この流れは、今後も加速することが予想されます。

さらに、現在イスラエルは、ハイテク産業が栄え、巨大ガス田の発見でエネルギー輸出国に転じ、食糧自給率は90%を超えるなど、国力が充実しています。さらに、四回の中東戦争を勝ち抜き、世界で最も先進的なミサイル防衛システム「アイアンドーム」を擁するイスラエル国防軍が国を守っています。

現在のイスラエルにとって最大の脅威はイランの核開発ですが、イスラエル情報機関や軍による破壊工作や空爆などで、成功しない可能性もあります。現在でも、ある程度「安心して暮らす」という状況があると言えるかもしれませんが、今後はさらにそのような状況に進むことが予想されます。この点は、今後の情勢をウォッチして、最新動向を本サイトで取り上げていきたいと考えています。

結論

以上で見てきたように、ゴグとマゴグの戦い(エゼキエル戦争)は、患難期前説に従って、大患難時代が始まる3年半以上前に起こると考えるのが、最も聖書の記述にあった解釈であることを示しました。この戦いによって、イスラエルと諸国民は、確かに神がおられること、神がイスラエルを守る方であることを知ることになります(エゼキエル38:18~23)。

参考資料

  1. William E. Blackstone, Jesus Is Coming: God’s Hope for a Restless World (New York: F.H. Revell, 1908; reprint, Grand Rapids: Kregel, 1989), p. 238.

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