イスラエルとサウジアラビアの国交正常化が水面下で進む

サウジアラビア地図

2020年に結ばれた「アブラハム合意」で、イスラエルはアラブ首長国連邦と国交を正常化し、その後、バーレーン、スーダン、モロッコといったアラブ諸国が、堰を切ったかのようにイスラエルとの国交樹立に合意している。このようにアラブ諸国とイスラエルの間で長年続いた敵対関係が解消されようとしている中で、イスラム教の聖地メッカがあり、アラブ諸国の盟主とも言えるサウジアラビアの動向が注目されていた。

イスラエルとサウジアラビアの国交正常化交渉は順調に進んでいたが、10月7日のハマスによるイスラエル南部へのテロ攻撃で、状況は一変した。イスラエルが人質奪回とハマスの掃討のために行ったガザ侵攻を受け、サウジアラビア政府がイスラエルとの国交正常化交渉の凍結を宣言したのである。

ただ、ここ最近の様子を見ていると、サウジアラビアはイスラエルとの国交正常化の方針を変更したわけではなく、むしろ既定路線となっているように思える報道が続いている。

サウジアラビアに近い外交筋の証言

イスラエルの『ハアレツ(Haaretz)』紙が接触した外交筋(外交官)によると、サウジアラビアはイスラエルと国交を正常化することを決め、あとは発表のタイミングだけが問題だという。『Jewish Exponent』紙は、この外交筋の話を次のように報道している。

バイデン政権は、サウジアラビアがアブラハム合意に参加するための一環として、パレスチナ国家の建設への道筋をつけるように働きかけているが、この外交筋によると、エルサレムとの外交関係の樹立に対する見返りとしてサウジアラビアが求めているのは、パレスチナ国家という目標に向かって着実に進展することの保証だけだという。
― Joshua Marks, “Report: Saudi Arabia to Normalize Relations With Israel,” Jewish Exponent, 1 May 2024

While the Biden administration has been pushing to connect a pathway to Palestinian statehood as part of the Saudis joining the Abraham Accords, the source said that the kingdom would only demand guarantees on progress towards achieving that goal in return for establishing diplomatic ties with Jerusalem.

サウジアラビアは、公式にはガザでの停戦とパレスチナ国家の建設がイスラエルとの国交正常化の条件としているが、この外交官の話では、イスラエルとの国交正常化は既定路線となっているということになる。

米国のアントニー・ブリンケン米国務長官は、両国の国交正常化について次のように語っている。

サウジアラビアと米国が協力して進めてきた合意に関する作業は、完成に近づいていると思う。ただ、国交正常化を進めるにはガザの平和とパレスチナ国家への確かな道筋という2つのことが必要となる。
― Joshua Marks, “Report: Saudi Arabia to Normalize Relations With Israel,” Jewish Exponent, 1 May 2024

“I think — look, the work that Saudi Arabia and the United States have been doing together in terms of our own agreements, I think, is potentially very close to completion.
“But then in order to move forward with normalization, two things will be required: calm in Gaza and a credible pathway to a Palestinian state.”

ブリンケン米国務長官の見解でも、「パレスチナ国家への確かな道筋」が国交正常化の条件としており、パレスチナ国家が実際に樹立されていなくても、サウジアラビアがイスラエルとの国交正常化に踏み切る可能性があることが読み取れる(ただ、その場合は、将来にパレスチナ国家を樹立することにイスラエル政府が同意することが条件になると思われる)。

サウジアラビア政府関係者の証言

サウジアラビア政府の中では、ハマスのテロの背後にはイランがいると見ており、イランによってイスラエルとの国交正常化が妨げられたという認識がある。『Jewish Exponent』紙は、サウジアラビアの王族の発言を次のように記している。

サウジアラビアのある王族は、4月初めに行われたイスラエルの放送局『Kan News』とのインタビューで、サウジアラビアとイスラエルの間で行われている国交正常化交渉が進展することを妨げるためにイランがガザでの紛争を扇動していると非難している。この王族は「イランはテロ支援国家であり、世界はもっと早くイランを抑えておくべきだった」と語っている。
― Joshua Marks, “Report: Saudi Arabia to Normalize Relations With Israel,” Jewish Exponent, 1 May 2024

In an interview with Israeli public broadcaster Kan News earlier in April, a source in the Saudi royal family accused Iran of instigating the conflict in Gaza to undermine progress in reaching a normalization agreement between Riyadh and Jerusalem.
“Iran is a nation that endorses terrorism, and the world should have curtailed it much earlier,” the Saudi royal said.

サウジアラビア政府は、パレスチナ人に同情的な国民感情に配慮してイスラエルとの国交正常化を凍結したが、実際にはイランという共通の脅威があるイスラエルと政府間レベルでの協力が進んでいる。このことは、4月14日にイランがイスラエルに300以上のミサイルやドローン(無人機)で攻撃を行った時に明らかになっている。

イランのミサイルを迎撃するイスラエルにサウジアラビアが協力

イランからミサイルやドローンで攻撃を受けたイスラエルに対して、サウジアラビアやヨルダンなどのアラブ諸国がイスラエルの国土防衛に協力していたことは各紙の報道で明らかになっている。イスラエルの『The Times of Israel』紙は、次のように報道している。

 サウジアラビアやアラブ首長国連邦などの湾岸諸国は、イランの攻撃計画に関する情報を事前にイスラエルに伝えており、大規模な攻撃をほぼ完全に封じ込めた迎撃作戦が成功する上で鍵となる重要な情報を提供していたとして、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙がサウジアラビア、米国、エジプトの当局者の発言を引用して報じている。…
 同紙の報道によると、数多くのドローンやミサイルを迎撃できたのは、アラブ諸国がイランの計画に関する情報を伝え、領空の使用やレーダーによる追跡を可能にしたためだという。場合によっては、アラブ諸国の軍隊がミサイルなどの迎撃に積極的な役割を果たし、「自国の軍を提供して支援した」と同紙の報告書は述べ、ヨルダン以外のアラブ国家もイスラエルを支援したことを示唆している。
― Stuart Winer, “Report: Gulf states, including Saudi Arabia, provided intelligence on Iran attack,” The Times of Israel, 15 Apr 2024

Several Gulf States, among them Saudi Arabia and the United Arab Emirates, passed on intelligence about Iran’s plans to attack Israel, providing vital information that was key to the success of the air defense measures that almost entirely thwarted the massive assault, the Wall Street Journal reported Monday citing Saudi, US, and Egyptian officials…
The report cited officials as saying that the success in stopping so many drones and missiles was due to Arab countries having passed on intelligence about the Iranian plan, as well as enabling the use of their airspace and providing radar tracking. In some cases, Arab militaries took an active role in intercepting the threats and “supplied their own forces to help” the report said, indicating that Jordan was not the only Arab nation to do so.

最後に「ヨルダン以外のアラブ国家もイスラエルを支援したことを示唆している」と書かれているのは、ヨルダンはイスラエルと平和条約を結んでいるので想定内だとしても、それ以外に自国の軍を動かしてイスラエルに協力した国があることを示すもので、サウジアラビアの関与を示唆している。

米国は、イランの脅威に対抗するために、かねてからアラブ諸国とイスラエル間の軍事的協力体制を構築するべく働きかけてきたが、今回その努力が実を結んだことになる。

四度にわたって中東戦争を繰り広げてきたイスラエルとアラブ諸国が、共同軍事作戦を展開するとは隔世の感がある。ただ、後ほど述べるように、このような状況は聖書で二千五百年前に預言されてきたことでもある。

インターネット上でイスラエルを批判する国民をサウジアラビア政府が逮捕

サウジアラビアは、ハマスとの紛争でイスラエルを批判するソーシャルメディアへの投稿の取り締まりを強化しており、逮捕される国民も出ている。このことも、サウジアラビアがイスラエルとの国交正常化に本腰を入れていることの表れと見られている。『The Business Standard』紙は、このような現状を次のように報じている。

 サウジアラビアと、エジプトやヨルダンなどの地域同盟国は、イランやイスラム主義グループがイスラエルとハマスの紛争を利用して反政府運動の波を起こすことを恐れ、この傾向(訳注:親パレスチナ派がアラブ諸国や欧米各国で抗議活動を行い、特に米国で衝突が起きている状況)に警鐘を鳴らしている。…10年以上前に起きた「アラブの春」の記憶はまだ新しく、中東地域の支配者たちは同じ轍を踏まないよう懸命になっている。
 サウジ国民がガザ関連の投稿で逮捕されたことは、イスラエルとの国交正常化に関し、ムハンマド皇太子の政権が政府の方針に従わない国民に対して強硬な態度を取る決意を示している。サウジアラビア政府と米国政府は今年初め、防衛協定と、民生用原子力計画の立ち上げに米国が協力するための協議を再開しており、合意に近づけば、イスラエルも招かれて三者間で協定を結ぶことになるだろう。…
 ソーシャルメディア上の親パレスチナ派感情に対する締め付けは、サウジアラビア政府がイスラエルとの国交正常化に真剣に取り組んでいることの表れかもしれない、と語るのは、湾岸諸国の専門家で、NGO団体「European Leadership Network」の政策ディレクターを務めるジェーン・キニンモントである。
― Sam Dagher, “Saudi Arabia Steps Up Arrests Of Those Attacking Israel Online,” The Business Standard, 2 May 2024

Saudi Arabia and regional allies like Egypt and Jordan have been alarmed by the trend, fearing that Iran and Islamist groups could exploit the conflict to incite a wave of uprisings… Memories of the Arab Spring more than a decade ago remain fresh among regional rulers, who are desperate to avoid a repeat.
The Saudi arrests for Gaza-related posts indicate Prince Mohammed’s regime will take a hard line against citizens not toeing the line when it comes to normalizing ties with Israel… Riyadh and Washington resumed their talks on a defense pact and US cooperation in launching a civilian nuclear program earlier this year, and, with an agreement close, Israel will be invited to join a three-way pact…
A clampdown on pro-Palestinian sentiment on social media may be a sign Riyadh is serious about normalization with Israel, said Jane Kinninmont, a Gulf expert who is policy and impact director at the European Leadership Network.

サウジアラビア政府にとって安全保障上の脅威は、イスラエルではなく、国内のイスラム主義者である。その中でも脅威なのはムスリム同胞団であり、ムスリム同胞団はハマスの母体となったイスラム主義団体である。そのため、ハマスと戦っているイスラエルにサウジアラビアが接近する構図は、敵の敵は味方という国際社会の常識から言っても理解できる。

イスラエルとアラブ諸国の接近が持つ預言的意味

イスラエルとアラブ諸国はイスラエルの建国以降に四度の戦争を戦った。しかし、旧約聖書のエゼキエル書38~39章で終末時代に起こると預言されている「ゴグとマゴグの戦い」では、アラブ諸国はイスラエルに対する攻撃に参加しない(ただし、解釈によってはスーダンは参戦の可能性がある)。特にサウジアラビアは、イスラエルへの攻撃に参加しないだけでなく、イスラエルに対する侵略を非難する側に立つことが預言されている。

MEMO
ゴグとマゴグの戦いの預言については、「終末預言を読み解く:ゴグとマゴグの戦い(エゼキエル戦争)」をご参照ください。ゴグとマゴグの戦いに参加する国については「ゴグとマゴグの戦い(エゼキエル戦争)の参加国」で解説しています。

これまで敵対していたサウジアラビアとイスラエルの間で緊張緩和が訪れ、両国が友好国になることは、「ゴグとマゴグの戦い」の預言から予測できることで、この預言の成就に近付いている一つのしるしにもなっている。そのため、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化交渉は、預言的に大きな意味を持っている。

現在は、ゴグとマゴグの戦いの預言の成就に大きく近付いている時代だと言うことができる。また、イスラエルに侵攻すると預言されている諸国の動向も、エゼキエル書で預言されている状況に近付いている。この点については次の記事で紹介したいと思う。

1 COMMENT

ロシアのイランとの接近とアフリカ諸国への影響拡大 - 聖書ニュース.com

[…] 一方、「ゴグとマゴグの戦い」でイスラエルを攻撃しないことが預言されているアラブ諸国は、1948年のイスラエル建国以来何度も戦争をしてきたにもかかわらず、近年になって次々にイスラエルと平和を回復し、国交を正常化するようになっている。前回の記事で紹介したように、まだ国交を正常化していないサウジアラビアも、国交正常化を視野に入れてイスラエルと交渉を行っている。 […]

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